「救世主が牧場に来るまでの経緯とか」


「あ、澪田。今回はペアになっ」
「創ちゃんよろしくっすうううう!」
「うわ!?ちょ、抱き付くなよ!あと顔をシャツに埋めるな!」
「...ちぇっ」

 渋々といった感じで澪田は悪態をつきながら俺から離れていった。頬を膨らませて「唯吹は激おこプンプン丸っすよぉ...」なんて呟いている。......いやいやいや普通ここは俺が怒るところじゃないか?

 こんなやりとりをコテージ前で繰り広げていた俺と澪田だったけど、まだ機嫌の直らない澪田の右手を掴んで引きずりながら十神に指定された場所へ向かう。

「...そういえばどこで採集するんすか?」
「話聞いてなかったのか?...砂浜だよ」
「いやあ唯吹はちょーど風の音に耳澄ませごっこをやってたっすから!てへりん!」
「てへりんじゃない!あと何だよその変な遊びは!」
「おやおや?創ちゃんも興味出てきた?やっちゃう?やっちゃうんすね!」
「うぷぷぷぷやっちゃうんだね!」
「1人で勝手に話を進めるな!......って、は!?」

 突然響いてきた、俺のでも澪田のでもない声に驚きを隠せない。隠せる訳がなかった。だって、ここには、俺と澪田しか、

「いやいや...何とも甘い考えだよ。甘過ぎて口から100%のコットンが出てきそうだよ日向クン!」

 声が聞こえてきた下の方を向けば、見覚えのある、白と黒のコントラスト。...そうだ、たしかこいつは、

「モノクマ...だったよな?」
「ありゃ、覚えてくれてたの?まあ登場を派手にしたから当たり前だよね!」
「...あー言われてみれば見覚えのあるような、無いような...やっぱ無いっす!」
「オマエにとってボクの存在はそんなもんなの?」
「...それで?何の用だモノクマ」
「...日向クンは話が早いね!まああれだよ、奥さま方のする井戸端会議をしに来たようなもんだよ」

 ...嘘のような気がする。いきなり出てくるなんて、怪しすぎるんじゃないか?

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ...どうせ今のボクには力がないんだし」
「ちから...?え、なんすかそれすっごく気になるっす!」
「おい、よせよ澪田!」
「大丈夫っすよ創ちゃん!唯吹の軽さをなめちゃだめっす!」
「むしろ駄目だろそれは!?」
「よし、特別に教えてあげるよ!力っていうのは、この「ネタバレ厳禁でちゅううう!」ぐほあ!」

 何が、あったんだ。ドロップキックが直撃して、モノクマが吹っ飛んだことは分かる。キックしたのは口調と声から考えて...もしかして、...いや、でもあの短足でキックなんて。

「なーにやってるんでちゅかモノクマ!」
「痛い、痛いよモノミ!あ、今はウサミか。いやー失言失言!」
「ほわ!既に失言の域を越えてネタバレしてる!?」
「まあいいじゃない気楽にいこうよ」
「全然よくないでちゅ何言ってるんでちゅかあんたは!」
「ステッキを剣のように扱うようになったか...モノクマ必殺、真剣白刃取りィ!」
「な、なんでちゅって!?」

「...なんなんだこれ」
「唯吹にも分からないっす...でも確実に言えるのは、この先面白い展開が待ってるってことだけっす!」
「...まあ期待してもいいのか。人形が戦ってる時点でありえないんだろうし」
「ともかく、ここが橋の前じゃなかったらもっと盛り上がったんすけど...ん?」
「...?どうしたんだ?」

「名前ちゃんが『助けて日向くーーん』って言ってるのが聞こえたっす」
「...はあ!?ちょ、それどこから聞こえたんだ澪田」
「結構近かったから多分牧場とかだと思うっすけど...」

「...ちょっと行ってくる!澪田はここにいてくれ」

「言われなくてもそのつもりっす!唯吹はこの戦いを見ていたいっすから!!行ってらっしゃい!」

 澪田とこの会話をしたあと、俺は牧場へ向かって全速力で苗字のいるであろう牧場へ駆ける。でも、俺が呼ばれたのは田中の執拗な質問攻めから逃げるためだと知って、少し怒りがわいたから仕事をしてないっていう理由で叱ったのは別の話。

俺は決してお母さんポジションではない

(田中に追い詰められていた涙目の苗字と目が合ったとき)
(少し心臓に悪かった、なんて)





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