「問おう、博愛主義者よ」


「...え、わたしが何で博愛主義者なのかってこと?」

 慣れない手つきで乳搾りをしている手を、止めた。

 太陽があと少しで真上になるころ。午前11時未明。
 乳搾りのレベルが違う田中くんに意味不明な言葉の羅列で質問されたのは、5分くらい前。まだ世界のことを知り終えていない小さな頭で、発せられた中ニ病言語を自分なりに解釈してみる。
 さっきわたしが言った言葉は、田中くんの中ニ病言語の解釈で。辿り着いた解釈が合っているか聞き返すと、田中くんはこくりと頷いてくれた。おおお...合ってた...!あれなんで感動してるんだろう。

 そうこうしているうちに、牛乳の量がまだバケツの半分もいってないわたしに比べて、田中くんはバケツ2杯目に突入しました。...わたしまだ半分もいってないのに...さすが...。

 この量は確実に雷が落ちる。主に十神くんと終里ちゃんから。もう行動が悟れるようになりました。うーん喜べないね!

「...ははは...まだ死にたくないなぁどうしようこれ」 
「ほう...死を畏れるのか、博愛主義者よ。ククク...必然として訪れる死をも愛する狂信者だと思っていたが...」
「死ぬことも愛するなんて...うん、わたしにはまだ遠い話だよ」

 また牛さんに手を伸ばして、乳搾りを再開した。思考回路が田中くんの言っていた通りになっているとすると、さすがにヤバい。全てを愛そうとは考えてるけどさ、わたしは今、この状況に自分でも信じられないくらい満足しているし、心から楽しいと思ってる。

「学校生活って、こんなに楽しかったんだね田中くん」
「フン、俺様はこんな俗世に興味などない」

 既に3杯目をいっぱいにした田中くんは、さすがに少し疲れたのか地面に腰を下ろした。

「...田中くんの過去って面白そうだよね...ねえ愛させてよ田中くんいいでしょ!」
「たわけたこと抜かすなよ貴様ッ!俺様は、いつでもこの手で消し炭にすることができるのだからな...?」
「ねえいつから中ニ病なの田中くんねえねえ」
「ええい、小賢しい!」

 しつこく質問を重ねてじりじりと迫っていくと、暗黒四天王がお住まいになっているというストールで顔を隠してもごもご喋るようになってしまって距離をとられた。...シャイ、だったのか...!!

 何度もそういうやり取りを繰り返していたわたしと田中くんだったけど、なにやらはっとした表情を見せたと思えば、次の瞬間、悪魔も逃げ出すような気味の悪い笑顔を浮かべてわたしを見つめてくる。...冷や汗が止まらないよ!さっきの照れていたかわいい田中くんはどこに...消えたんだ...

「フフ...ハハハハ...そうか、その手があったか...」
「......え、なに?田中くんそんな笑顔できたっけ」

「正体を明かせ、と吠えるのなら貴様の方から明かすというのが、世の理というものではないか...?」

「...ああー、」

 変なやる気スイッチ押しちゃったよ。リスクなんて考えずに入れちゃったよ、田中くんの中ニ病スイッチ...自分のボキャブラリーの無さに呆れたのは、今回が初めてかもしれないなぁ。なんて、呑気に思ってる場合でもなかった。

「さあ、全てさらけ出してみせろ博愛主義者!俺様の、この手が、暴れだしてしまう前になァ!」
「無茶ぶりはよしてよ田中くん!スイッチどこ?今すぐオフにしてあげる!」
「何を訳の分からんことを吠える...?さあ目下に晒すがいい!」
「うわーん助けて日向くーーん!」

脳内の片隅で終わりを感じた昼下がり

(こんな叫びで来るはずがないと思ったとき)
(日向くんが駆けつけてくれて)
(2人ともお叱りを受けたのは別の話)

仕事ほったらかしてたからね!





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