自動ドアをくぐる時に発せられる独特の音とありがとうございましたーという声を背に、幸せな気分でプリンの入っているビニール袋を持ってコンビニから出た。

「...雨降るなんて聞いてない」

 憎らしいほどにざあざあと降り注ぐ雨は止む気配を全く見せない。おかげで不機嫌ゲージ満タンである。家を出るときに確認したニュースの天気予報では、確かに晴れだったのに。下の欄は雨マークだったけ、ど...まさか見間違えた!?馬鹿だわたし自転車でここまで来たんだようわああああ!!

 ちなみに明日は大事なテストがあるから、風邪引いちゃいましたなんて理由で学校を休む行為をしたくない。いや、まあ引いちゃったら仕方ないんだけど、ただでさえ危うい成績が更に危うくなるというか。

 手に握り締めたビニール袋が汗と湿気でぬめる。なんだか表現汚い。そうこうしている内に独特の音がまた聞こえてきた。ドアの前に突っ立っていることに今更気付くなんて馬鹿だなあと思いながら少しだけ端に寄る。
 雨音は相変わらず煩かったけど、耳は自然と会話を聞き取る。

「荷物運んでくれてありがとうねぇ」

 おばあさんの声だ。...優しいな、運んであげるだなんて。わたしは...どうだろう、見てないフリ、するんだろうなあ。

「これくらい当然ですよ」

 ......この声、もしかして。そう感じた時に自分はもう振り向いていたから、改めて恋って厄介な病気だと思った。

「日向くん!」
「え?...名前!奇遇だな」
「どうしたの、コンビニになんて来る人じゃないでしょ」
「いや...イズルが急にカップ麺食べたいとか言い出してさ」

 眉を少し下げて困ったように笑っている日向くんが、すごく輝いて見える。イズルくんもいいお兄ちゃんを持ったものだ。わたしだって欲しいなこんなお兄ちゃん。

「かわいいわねぇ」

 ふふ、と笑うおばあさんの声を聞いて、現実に引き戻された 。このおばあさん着物でちっちゃくてかわいい...じゃなくて!そういえばコンビニの前じゃん...。......決して、妄想していたわけじゃない。決して!日向くんがお父さんだったらもっとよかったなーとか思ってないよ、うん。

「あっすみません、荷物お持ちしていたままでした」
「あら?いいのよ全然」
「(日向くん執事路線でもイケるな...)」
「ああそうそう、これをあげるわ」
「...えっ!?」

 お礼に、と言ったおばあさんは杖に引っかけていたかわいい巾着をごそごそといじって、何かを取り出して日向くんの手のひらに乗せた。隣から覗き込んで見てみたが、ただの2枚の紙切れにしか見えない。なんだかチケットみたいだなあ...?

「映画のチケットよ」

「「...ええ!?」」

 よく見てみるとそれは確かに、最近話題になっている『絶望の申し子』という映画だった。孫に買っていたけど既に孫も買っていたらしく、いらなくなったらしい。

「いや、でも、もらえませんよ」
「いいの!人の好意には甘えればいいのよ」
「う...」

 この言葉はさすがに日向くんも論破できないね...おばあさん強い。日向くんは渋々チケットをビニール袋に入れた。顔が納得いってないぞ...。

「あなたたちみたいな子に幸せになってほしいわ」

 笑顔でそう言ったおばあさんの帰っていく姿が見えなくなるまで見送る。...いい人だったなあ。

「...帰ろっか」
「...そうだな」

 いつの間にか、煩かった雨音が止んでいることに気付いた。


小さな幸せ


(自転車どうしようサドル死んだ)
(...俺の家来るか?)
(ありがとうございますタオル貸して)



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