( 流川楓という男 その2 )
( 短編のスイートスリープセンセーションの続き的なお話 )

 なんだかどっと疲れた。キャプテンって大変だな。オレ、意外と気ィ使っちゃうほうだし。こう、孤立がちなヤツが何考えてんのかなーって知ろうとするのとか、コミュニケーション取りに行って理解してあげるのとか、キャプテン的には大事かなって思ったりしてたんだ。本にも書いてあったし。

「なにため息ついてんだ、キャプテンさんよ」

 ゴス、と後頭部に固いものをぶつけられて「イテッ」と振り向くと、バスケットボールを掴んでいる三井さんがいた。

「三井さんさあ、モテてーっていっつも言ってるけどカノジョ欲しいってこと?」

 そう問うてみる。間髪入れずに「あたりめーだろ!」とかそういう言葉が返ってくるのだろうと思っていたのだが、予想に反して三井さんはうーんと言いながら顎に手をあてて神妙な面持ちで「わかんねえ」と小さな声で言った。

「わかんねえって…自分のことっしょ」
「あーいや、モテてーとは思う。男は常にモテたい生き物だ、そうだろ?けどよ、カノジョは別にいらねーかな」
「ムジュンしすぎてなんか全然わかんないんだけど」
「バスケやってるのにカノジョ作ってもそっちに割ける時間ねーだろ。オレ、両立できる気がしねーもん」

 ああなるほど、そういうことね。
 そして分かった、三井さんの言いたいことを要約すると「オレも流川みてーにキャーキャー言われたいけどバスケを優先したいし上手くいく自信がない」ということらしい。確かに三井さんってデリカシー無いしクチ悪いし威圧感あるし、そもそも最近まで不良だったから環境変えないと女の子なんて寄ってこないだろうな。

「オメーモテたいからそんなヘンな顔してたのか?」

 ちょっとイラッとしたのでその言葉には返事をしないでおくことにする。別に悩んでるとかじゃなくて、何考えてるかわからなくて、っていうかバスケの事しか考えていないであろうバスケ狂いの流川の中にさっき聞いた話のような存在がいたことに衝撃を受けすぎてちょっと心ここにあらずというか、そんな感じなのだ。
 でも、今オレの目の前にいるデリカシー無し男こと三井さんにこんなことを話したらすぐ本人の所に言って大事にしかねない。やれどの女がオメーの好きな女だの、そういう下世話な行動を起こすに決まっている。そうだ、これは静かに見守るべき事案なんだ。キャプテンのオレにはわかる。キャプテンとしてこの秘密はぜったいに守るからな、流川!

「デリカシー無し男さん、オレ頑張るよ」
「…は?おまえ、それもしかしてオレの事か」
「あっ違う間違えた、三井さん」

 次の瞬間、三井さんが手に持ったボールがこちらに放たれる予感がして、さっと避けたらヤマが見事に当たって回避できた。よかった。テメーコラ宮城!避けんじゃねえ!と怒鳴る三井さんが放ったボールはというと、ぼーっと座っていたルカワの側頭部にクリーンヒットした。
 ごめん、流川。
 でも投げたの三井さんだからオレは悪くないよ。

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