曖昧ノスタルジア


十年バズーカに被弾した。その事実は鯱を青ざめさせるには十分だった。


(!、スクアーロ!)
「うぉ゙!」
(怪我とかしてないか?!)
(ちょ、まてまてまて)
(何を呑気に、十年後に飛ばされたんだぞ!)
(なにいってんだぁ?)
(なにって…)


話が噛み合わないことに困惑しながらも、再度口を開いたが、そのあとは声に出なかった。


「ロン毛たいちょー」
「うお゙ぉぉぉい゙フラン!ロン毛はよけいだぁ!!」


エメラルドグリーンの髪と目をもった彼は、まだ今のヴァリアーにいない。やはりここは十年後で間違いない。だがそこで、違和感が頭をもたげる。フランの態度に、別段驚いた様子が見られない。それに、さっきチラリと視界に入ったスクアーロの髪、妙に長かったような…。そこまで考えたとき、水底から一気に引き上げられるような感覚がした。


(スクアーロ、今幾つだ!)
(はぁ?)
(何歳かっつてんだよ!!)
(っ32!)


びくりとしてスクアーロが叫んだ数字は、自分の相棒よりも十多い。鯱は愕然として呟いた。


(私だけ、飛ばされた…?)
(どういう…まさか)
(私の知ってるスクは22だ)
「…マジか」
「何がマジなんですかー」


途端に、鯱の体を戻れるのかという不安がじわじわと蝕む。手が、足が、震え始めた。


(戻れるからそうしょげんじゃねぇ)
(ほんと…?)
(十年後の俺が言ってんだぁ。嘘なわけあるか)
(…よかった)
「黙ってないでなんか言えよロン毛ー」
「ぁあ゙!?」
(…あー、言ってもいいんじゃないか?)


スクアーロは今ので言う気をなくしたのか、あまり言いたくなさそうだったが、鯱の言葉に渋々口を開いた。


「鯱が十年前と入れ替わった」


その瞬間、気だるそうなエメラルドグリーンが面白いくらいにキラリと光った。


「十年前の鯱さんですかー?」
「…あ゙ぁ」
「変わって下さい隊長ー」
「無理だぁ」
「…なんでですかー」
「なんでも」
(スクアーロ、別に)
「ちっ、やきもちかよー」
「な゙」
(え)
「いいですよー、勝手に喋りますー」
「っフラン!」


ピタリ、鯱はフランと目があったような気がした。


(もしもーし)
(え、あ、)
(どうもー、ミーはフランですー)
(あ…しゃ、鯱です)


急な状況に頭が付いていかないでいると、フランが少し表情を崩した。


「十年前も可愛いですねー」
(っ!)
「うお゙ぉぉぉい!テメェ何勝手に口説いてんだぁぁ!」
(く、口説くって…なんで話せるんだ?)
(幻術の応用ですねー。隊長相手ならちょろいもんですー)


心なしか自慢げに見えるフランが可愛くて、鯱はすっかり油断してしまっていた。


(鯱さん)
(ん?)
(好きですー)
(えっ)


ぼふんっ


曖昧ノスタルジア


(大丈夫かぁ、鯱!)
(……もど、た…?)
(どうしたぁ?)
((顔が熱いっ…))

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