オレンジ


今日はボンゴレ最大規模の"小さな"パーティーだ。様々な国の料理人、著名な音楽団の生演奏。どの人も最高の衣装に身を包んでいる。右を見ても左を見てもスクアーロには居心地が悪すぎた。席に座ったままのスクアーロに声をかけるものはいない。その価値がスクアーロにないからだ。


(帰りてぇ…)
(付き合いだと思って我慢することだな)


鯱は心底スクアーロに同情したが、なにもすることは出来ない。
スクアーロが溜め息を漏らすと、目の前に小さなグラスがスッと出てきた。手をたどると、人の良さそうなボーイ。片手にいくつかのグラスを乗せたトレーを持ち、軽くスクアーロに笑いかけると、直ぐに去っていった。出されたカクテルに視線を戻す。途端に中からモヤモヤした感情が出てくる。鯱の纏う雰囲気が穏やかでなくなったからだ。


(…飲むのか)
(いや…まぁ、)


幾分低くなった鯱の声に、スクアーロは若干の恐怖と面倒臭さを覚えながら、歯切れの悪い返事をした。
正直に言えば飲みたい。実を言えば自分は酒を飲んだことがない。飲む機会がなかったから。鯱が自分の中にいるようになってからは、鯱に阻止されていたからだ。阻止といっても、人格ゆえ口でしかないが。自分はまだ十余年しか生きていない。勿論まだ法律上は飲んではいけない年齢だ。マフィアなのでそんなことは塵も気にしないが、剣のためと鯱がうるさいので飲まないようにもしていた。
だが、目の前にある半透明のパステルカラーはスクアーロに興味を持たせるには十分だった。元々の性格も手伝って、ムクムクと沸き上がってきた好奇心がぐらぐらスクアーロを揺らす。少しくらい、と思い、手を伸ばした。

…つもりだった。


「は?」


手が動かない。何か得体の知れないものに押さえ付けられているようで、意志はあるのにピクリともしない。なんだこれは。スクアーロの心臓が跳ねた


(の む な)
(テメェかぁ゙ぁぁっ!!)


ビビった。めちゃくちゃビビった。そういう類いは信じないが、これではある意味呪いだ。スクアーロは内心怒鳴った。


(うるっせぇんだよ!ちょっとくらいいいだろうがぁ!)
(み せ い ね ん)
(表社会の事情なんざ知るかぁ!このっ…)


そこまで飲みたいわけではなかったが、鯱の行動に躍起になっていた。こうなりゃ何が何でも飲んでやる。スクアーロはありったけの意思と力を止めた。スクアーロの右手は二人の強い意思の間でブルブル震え、端から見ると少し気持ち悪い。


「なにしてんの?あの子…」


様子を見に来たテュールは、少し離れたところから首をかしげた。

オレンジ

(くっ…)
(甘いな、スクアーロ)


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