未知


向かい来る銀を弾いた。相手の手から放り出されたそれは夕焼けの赤を纏い、鈍く光を弾きながら地に落ちる。スクアーロは勝った。
相手は弱すぎた。また外れ。その言葉が自分を苛立たせ、恐怖に満ちた男の首を斬らせた。

疲れも満足感も塵も出ない。剣で殺り会うのは好きだが、自分の腕が上がっていくにつれ、物足りなさを感じずにはいられなかった。何か面白いことでも起こらないだろうか。そんなことを呟いて帰路に向かおうとすると、か細い、しかしはっきりとした声が聞こえた。


(…な…)
「!」


男とも女とも取れる、中性的な声だ。なんとか聞き取れるくらいの声量の筈なのに、ハッキリわかった。しかし、辺りを見回しても気配を探っても、周りには誰もいない。
気味が悪い。スクアーロは大きく息を吸い込んだ。

「ゔお゙ぉぉぉぉい!!」


自分の腹から出ていった声は、夜に近づいていく空の静寂に呆気なく飲まれていった。それ以外の音はない。しかし気のせいではない。必ずどこかに「いる」のだ。


「どこにいやがる、出て来やがれぇ!」


なおも辺りを見回す。
鬱陶しい。見つけ次第斬ってやろうか。そんな考えが頭を掠めたとき、また、声がした。


(誰かいる…?)
「!、ゔお゙ぉぉぉい!!さっきから鬱陶しいぞぉ、正体を見せろぉ!」


声だけがする。しかも、自分のすぐ傍から。寧ろ自分からといった方が適切かもしれない。冗談じゃない。そんなわけ、


(なか…)
「あ゙ぁ?!」
(信じがたいですが…あなたの中と言うのが一番しっくりきます)

姿を見せないそいつはそんなことを言った。どうかしてる、あり得ない。そう叫んでやりたかったが、どうしたことか、声が出ない。やっと絞り出せたのはいつもよりいくぶん小さかった。


「訳わかんねぇこといってんじゃねぇぞぉ!」
(そうは言われましても…)


そいつは続けてこんなことも言ってきた。


(……どうやら私はあなたの人格みたいです)
「!」
(名も実体もないもう一人のあなた。それが私)
「な゙…」


いよいよ声が出なくなった。あり得ない、あり得ない。そんなことをあるわけがない。自分の頭はイカれてしまったんだろうか。それともこれは夢なのか。


(驚かせて大変申し訳ありませんでした。…初めまして、よろしくお願いします。)


う そ だ ろ


♂♀


認めざるををえなくなった。あれから数時間はそこら中を探し回った。だが声は絶えず自分の傍からするもんだから、ついには認める以外道はなくなってしまった。こんなのってない。しかし自分の頭がイカれたとだけは思いたくなかった。
一番星がどれかわからなくなったころ、ようやくスクアーロは足を止めた。聞こえる溜め池、つきたいのはこっちだ。


(認めてくれませんか…?)
「あ゙ぁ……、もう認めるしかねぇだろ…」
(それはよかったです。私としては、認めてもらわなければどうにも出来ませんから)


ああ、認めてしまった。
これで数時間前の自分とはオサラバ。これからは二重人格のスペルビ=スクアーロってわけだ。
中のそいつが帰らないのかと訊いてきた。その前に自分のこと話せなんて言ったが、果たして生まれたての人格に自分なんてあるのだろうか。


(私はあなたの中ですから、帰りながらでも話しますよ)


どうやらあるらしい。言葉にしたがって俺は屋根から帰ることにした。
何故か屋根に戸惑っていたようだが、オレはお前が屋根を知っていたことにビックリだ。

そしていざとなるとそいつは話すのに困っていた。出し渋っている様ではないことは、なんとなくわかった。屋根は知っていたくせに。
なおも催促してみると、フレンドリーだと言われた。んなわけあるか、自暴自棄になってるだけだ。
内心そう悪態を着いていると、相手は何か閃いたようだ。
そしてこれがオレには中々の衝撃的事実だったりする。


(剣術が好きです)


なん…だと…?

只でさえ剣を使える奴が少ないこのご時世に剣好き?不幸中の幸いというか、とりあえず誰かわからんがよくやった!
ふと脳を掠めた、こいつは俺の剣への愛と欲求と不満から生まれた妄想ではないかという考えには一瞬で蓋をした。は、ないないない。俺に妄想癖なんて断じてない。


もともとオレは何事も細かいことをネチネチ考えるのは嫌なんだ。ポジティブに考えようじゃねぇか。いや、ホントいい奴入ってきた。さっきまでのモヤモヤが至極どうでもいい。



未知



剣好きはステータス!


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