甘美とクライマックス

闇は消えた。もう恐れることはないのだ。人々はまだ実感を感じることなく、しかし込み上げる確かな歓びを胸に、安堵に体を預けていた。その中には仲間との再会を喜ぶものもいれば家族との別れに悲しむものもいる。そんなたくさんの笑顔と涙がごちゃ混ぜになっているところに、少女は来た。
無造作に伸ばされた髪、黒い服、引きずる足や手、首につけられた枷。切れた鎖を引きずる音と一緒にゆっくりと歩くその少女は、誰の目から見ても異端である。頭の先から真っ黒のその様は闇さえ思わせる。人々は警戒し、恐れ、話すのをやめざる終えなかった。耐え難い疲労に体は動かず、ただじっとそれを見ているしかない。

(なんなの、この羞恥プレイ。こんなの聞いてない。何てかしてよフレッド)
(いやあ、無理だな!流石に見た目がヤバい)
(好きでなってんじゃねぇわ!)
(そんなことより、早くいかないと俺のからだが腐っちまう。ゾンビはゴメンだぜ?見た目は面白いが、せっかくのイケメンが台無しだ)
(黙れろくでなし。本当にこっちなんでしょうね?)
(たぶん)
(たぶん!?)
(あ、大丈夫、大丈夫。ママたちが見えた!あの赤毛の集団のところさ)
(…めっちゃ睨まれてる…)
(そりゃあ君が)
(黙れ)


「何者だお前」
(こいつがジョージ俺の相棒さ)
「…」
「闇の陣営か?」
(で、こっちがパパ)
「…」
「今更何しようっていうの!?」
(こっちはママだよ)
「…うるさい」


何でこんな睨まれなきゃいけないの。あ、さっき口に出したからか。説明面倒だな。
何やら怒鳴ってくる赤毛を無視し私は一人眠っている青年の傍らに腰を下ろした。



甘美とクライマックス


向けられる杖にはもう慣れた。

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