あのあと久しぶりに見た弟とリボーンくんを取っ捕まえて、根掘り葉掘り聞かせてもらった。最初は言うのを渋っていたようだが、私の意思は何よりも固い。もうこちらは情報を得てしまったのだ。
聞けばなにやら不思議なバズーカで未来に飛ばされ、そこで悪い人と戦ったらしい。そしてそのときの記憶が、戦いに関わった人間の頭に引き継がれているとのこと。つまり、

「あの人もこの記憶を持ってるってこと?」
「あの人って?」
「ザンザスしかいねーだろ」
「あ、あー…」
「そうなんだ…」

ツナの苦笑はすなわちyesだ。あの人も同じ記憶を持っている。私たちの未来を見たんだ。

「わ、私…殺されないかな……」
「えっ?」
「アイツの性格上否定はできねーが、まあ大丈夫だろ」

不確定な未来の可能性のひとつだとしても、きっと彼にとってはその可能性が存在すること自体が問題に違いない。いかにもそういうのが面倒で邪魔だと思ってそうだし、邪魔なものは消すことを厭わないのも知っている。
そう思うと、生まれたばかりの小さな思いがチクチク傷ついて縮こまってしまった。苦しい。理性が私に言う。無理なのはわかりきったこと。あり得ないことだ。

「今のアイツにそんな力はねぇし、ツナがまた守ってやる」
「俺!?」
「ったりめーだろ」

二人のやり取りに、私は曖昧に笑うしかできなかった。



あれから短い間に色々なことがあった。そしてそんなことをしていたら恋の熱も随分落ち着いて、早くも諦められるようになっていた。あのときはあのとき。今の私はまた違うのだ。
そういえば先日、ディーノさんが来ていたな。相変わらずとてもかっこよかった。ツナたちはまた何やら忙しそうだし、毎日とても疲れてる。お母さんも疲れてるのか倒れてしまったし。とても心配だ。家族のことを思うと、自分の無力さにやるせない気持ちになる。せめて家事くらいはと足早に家へ帰る。

「へぁ…?」

つい間抜けな声を出してしまった。しかし仕方がない。なにせ、見えてきた自分の家に明らか堅気でない方々が溢れかっているのだから。これは何事なんだろう…。ビアンキさんが女の子二人を連れ出しているのを見てはっとする。私は小走りに玄関に入った。

「ただいま〜…ツナ?」

庭にも玄関にも廊下にも、黒いスーツの厳つい男の人たち。きっとディーノさんの部下の方…だと思うが、怖くて縮こまってしまう。半ば助けを求めるように、リビングに顔をだした。

「……あ」
「ね、姉ちゃん!?」

そこには黒いスーツの人よりも怖い顔の人や、ツナの先日できた友達、ディーノさんもいた。一斉にこちらに目を向けるものだから、私は緊張して声がでなくなった。しかし、それよりも私が固まってしまった原因が、じっとこちらを見つめてくる。焦がれ諦めた、赤い目の、あの人が。

「……え、えっと」

だめだ、落ち着け。冷静になれ。ぐるぐるといろんな気持ちや思考が混ざって、しまいには弾けとんだ。じぶんがどんな顔をしているのか、全く考える余裕がない。どんな顔をすれば正解なのか。どうしよう、泣きそうだ。パニックになって、視界がじんわりと滲んできたところで、私はやっとの思いでツナの方を見た。

「おっ、お客さん来てたんだね!ごめん!」
「あ、いやえっと、」
「私部屋にいとくね!お邪魔しました!!!」
「姉ちゃ」
「おい」

姉弟揃ってぎくりと揺れた。いや、ディーノさんも、あの人の隣にいる銀髪の男性も、これでもかというほど驚いている。それはそうだ。まさか誰も、引き留めるなんて思ってないだろう。いや、未来の私たちのことを知っている人からすれば、それはまた別の驚きなのだろうが。

「はい…すみません」

絶対殺される。そう思ってつい謝罪を述べてしまった。私の言葉にはっとしたツナ達が、今度は酷く焦り始める。

「ざ、ザンザス!姉ちゃんは関係ないから!」
「そうだぜ、話の続きをしねぇと」
「う゛お゛ぉい!早まるんじゃねぇぞ、ッオ゛!?」

銀髪の人の台詞と、銀髪の人に振り下ろされた容赦のない拳で確信した。私死ぬんだ…
あの人…ザンザスさんはあろうことかわざわざお立ちになって、私の方に向かってきた。しぬ。わたしも含めたみんなが固まって、彼を見守るしかない。さよならツナ、お父さん、お母さん……

ガッ。そんな音が出そうな勢いで、彼は私の顎をつかんで、私の顔をあげさせた。目を瞑っているのも怖いので、自然と目が合う。燃えるような、しかし炎よりも深く濃い赤色。未来の私が愛し、今の私が焦がれた赤色。何かを見定めるようにすっと細くなった視線があまりにもかっこよくて、諦めていた思いが一気に息を吹き替えした。顔が熱い。どんどん熱くなる。耳まで熱くて、また涙がにじむ。緊張と歓喜と、どうしようもない恋心で。やっぱり諦めきれない。殺されるけど。
ザンザスさんは何か考えているのか、数度瞬きをしたあと、ゆっくりと私の唇を撫でた。まって、何が、いったい何がおこって?

「……」
「……」

気まづい。そして猛烈に恥ずかしい。彼にこんなことをされていることも。そして、それを大勢の人に見られていることも。これは別の意味でしぬ。いっそ殺してほしいくらいだ。私はまた思考の限界を超えて、ついに涙を流してしまった。頬があまりにも熱いから、涙が冷たく感じる。

「……笑わねぇのか」
「はえ……?」

そう一言だけ呟いて、ザンザスさんはぱっと手を離し、家を出ていってしまった。
それに気づいた銀髪の人たちが後を追っていく。

「……姉ちゃん?」

そしてツナの声で我に帰った私は、猛スピードで自室へかけ上がった。


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