追い恋

10年後の世界に飛ばされて、訳のわからないまま連れまわされ、ずっと頭は姉の無事を案じることでいっぱいだった。リボーンたちは、母さんや父さんは旅行中だと言っても、姉のことは後でわかると教えてくれなかった。様子からして無事なんだろうが、それでも安全なところにいると、元気でいるという確証がほしかった。胸に巣食った不安は、何をしても拭えることがなかった。

そして白蘭の欲は潰えて、正真正銘の終わりを勝ち取った。獄寺くんも山本も、ヴァリアーもボロボロで、皆が一度日本の基地で治療されることになった。一人一人が満身創痍だったから、一番近く、医療施設もある程度揃っているここで療養するのが最もだと判断したからだ。広い基地で、皆がベッドに貼り付けになっているのだから、あのおっかない面々とは顔を会わせることがなかったが、

「姉ちゃんのこと、結局わかってない」

そう、姉は本当に無事なんだろうか。もしかしたら、自分を不安にさせないための嘘だったのでは……?いくら白蘭を倒して全てがもとに戻るとはいえ、それは悪夢でしかない。考えを振りきるように固く目をつむった。

「ツナ」
「……!」
「つーな、おはよう」
「ね、姉ちゃん……?」
「うん、おはようツナ。よく頑張ったね。」

懐かしい声がして、はっと、目を開ける。目の前にはずっと会いたかった姉が、笑ってこちらを見ていた。自分が知っているよりも大人びて、綺麗になった、でも自分が知っている優しい笑顔。間違いなく自分の姉だ。
次の瞬間には、堪らず抱きついていた。年甲斐もないとか、恥ずかしいとか、そんなのはどうでもいい。生きてた。こんなに嬉しいことはない。

「姉ちゃん、よかった」
「心配かけてごめんね。お疲れ様。」
「ほんとだよ……どこにいたの?」
「うんとね、イタリアだよ。私イタリアに住んでるから。」

イタリア、確かまさに激戦地であっはずだ。血の繋がりがないとはいえ、ボンゴレにとって重要なポジションである姉が、そんなところにいてよく無事だったものだ。
顔に出てたのだろうか。姉はおかしそうに笑って、自分の髪を愛しそうに撫でた。

「心強い人がいてね。危険はあったけど心配なかったよ。明日帰るんでしょう?丁度その時にいうよ。」

ふふ、と姉は笑って、それ以上は言わなかった。

迎えた最終日。技術班のみんなに改造してもらったリング、見送ってくれるこちらの世界の人々。しかしそこに姉の姿はない。

「あの、姉ちゃんは?」
「彼を連れてくるのに苦戦しているのよ」
「か、彼……?」

答えたのはビアンキだ。ハルや京子ちゃんに向ける笑みと同じ顔で柔らかく呟いた。
彼?彼ってだれだろ……昨日の話からして、姉ちゃんの心強い味方なんだろうか。

「はやくしてください!ツナが!帰っちゃいます!」

そのとき聞き慣れた声がして、ハッチの方に視線を向けた。そこには昨日見た姉と、

「なっ、なっ…………!」
「おっ、あれって」
「嘘だろ…………」
「ざ、ザンザスーーーッ!!!?????」

堪らずそう叫ぶと、ザンザスはギロリと睨んできた。怖い。でもそれ以上に、隣でにこにこと微笑んでいる姉との組み合わせの方が怖い。(十年前の)つい先日、一触即発だったのに、

「い、いったい……」
「なんで10代目のお姉さまが……!?」
「おっ、あれ」

山本がなにかに気がついたようで、二人の方を指差す。

「結婚指輪ってやつじゃねえか?」
「はぁ!?!?」
「ほら、ツナの姉ちゃんの左手」

見れば確かに、昨日は気がつかなかったが、姉の左手の薬指にはしっかりと銀色が光っている。
姉はザンザスをグイグイ引っ張るのに夢中で(本当に怖い)、こちらの話を聞いていないようだ。

「なん、え……姉ちゃん結婚してたの……?」
「え?あっ!そう……へへ、うん!ほら、ザンザスさん!待たせてますよ!!」
「るせぇ」
「待たせてごめんね、ツナ。昨日言った人、ザンザスさんなの」
「あっ……心強い人?確かに、めちゃくちゃ心強いけど……」
「うん、あと旦那さん!」
「……?」

愛よね。とうっとりしたビアンキの声が遠くに聞こえる。な……なんて?

「時間だ。ここでさよならだぞ」

リボーンのこえでハッとしたが、時はすでに遅く、もうそ
のときは始まっていた。

「ちょ、ま」

理解をするより早く、声をかけるより先に、自分達は帰ってしまった。輝かしい笑顔でザンザスをガッチリ引き留めている姉を最後に。



ツナ達がみんな行方をくらませてから数日。突然、この世の終わりかというような地響きに教われた。
私は自室で本を読んでいたのだが、慌てて部屋から出ようとする。


「わっ、わわわ、きゃあ!」

しかし歩くことすらままならず、情けなく尻餅をついた。棚から本が雪崩落ち、あらゆるものは倒れ、めちゃくちゃになっていく。だが何より、この揺れがめちゃくちゃにしたのは私の頭のなかだった。

「……は?」

意思とは関係なく、ごうごうと雪崩のように押し寄せる記憶。十年後、イタリア、マフィアの抗争、そして何よりも

「あ……まってまって、」

まって。認めたくないんじゃない、わからない。しかし、あの人の顔が、目が、優しい手が何よりもリアルに残っている。感じたことがないはずなのに、五感に焼き付いて、私を追いたてる。始まりは突然というが、これはあまりにも不意がすぎる。
顔から火が出そうというのを、初めて体験した。困惑が大きくてなにも考えられないが、この謎の記憶は、自分の心に焦げあとを残してしまった。

「な、なんて被害……」

あべこべだが、これもまた、恋の始まりなのだ。


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