目を覚ましたらもう自室だった。ツナたちはボロボロだったけれど、無事に帰ってきていた。彼のことを聞いたが、気まずそうな顔をするので、いいとは言えない待遇が待っていたのだろう。姉ちゃんごめんな。というツナの瞳は、甘い色で揺れている。馬鹿だな、そういうところだぞ。湿った空気を吹き飛ばそうと大きく息を吸う。

「とにかく、みんな生きてて良かったよ。怖かったね」
「え?うん…あ、あのさ」
「なあに?」
「お、俺も姉ちゃんのこと、家族だと思ってるよ。その……大事な……」
「締まらねぇな」
「なっ!!?」

相変わらずリボーンくんの言葉に飛び上がる弟に、吹き出してしまう。知ってるよ。弟のことはよく知ってる。リボーンくんはツナを蹴り飛ばすと、今度は私の側に飛んできて真っ黒で大きな可愛い目を合わせてきた。

「まさか全部覚えてるとはな。流石の俺も驚いたぞ」
「うん。精度はよくないから、テスト勉強はしないとダメなんだけどね」
「家光には報告をせざるを得なかった。すまねぇな」
「いいよ、いつか言わないといけなかったし。今度帰ってきたときに話すね。」
「……いつになるかわからないよ」

ツナがムッとして言った。気持ちはわかるけど、仕方ないよ。お父さん忙しいし。

「ザンザスのことだが」
「ああ、あのお兄さんね。小さい頃会ったんだよ。産みの親を殺されたあとすぐ。私はともかく、向こうは覚えてなかったと思うけど…」
「よ、よく殺されなかったね、姉ちゃん……」
「そんな理性ゼロって人じゃないよ。1度だけ、男の人に言われて私を抱えたくらい」
「抱えたァ!?」
「ほぉ」
「ふふ、慣れてないからさ、すごい下手でね」
「こりゃあいいネタを手に入れたな」

リボーンくんはとても嬉しそうに笑ってる。ツナは固まってしまってる。それがまたおかしくて、笑いが止まらない。

「ザンザスは覚えてたみたいだぞ」
「え?」
「そのときのこと」
「うそ、何でだろ……」

深紅の瞳を思い出す。遠い昔、たった一日会っただけの人。抱えられたこと以外はあんまり覚えてない。無口で、ずっとムッとしてたくらい。あの日何をしたのか、どう過ごしたのか……彼は覚えてるんだろうか。

「…また会えたらなあ」
「え!?」
「怖いけど、気になるもん。私が覚えてないこと覚えてるかも」
「殺されちゃうよ!」
「弟より姉の方が度胸があるみてーだな。情けねぇ」

また会えそうな気がする。私、勘はいい方なんだよね。



無機質で冷淡な室内、一人ザンザスは物思いに耽っていた。物音ひとつしないとなると、どうしても思考がうごめく。思い返すのは一人の女。少女と言うにはしなやかで強か。女と言うには無垢で柔らかい。沢田綱吉の姉。裏切者の娘。無力の象徴。ボンゴレの根幹に存在し得るはずで、しかし決してそこ手が届かない人間。
認識せざるを得なかった。自分と同じようだと。そしてそれ故に、自分の血を、力を、ボンゴレの人間を憎まずにはいられなかった。あの女と自分の類似を承諾することで、自分の血を突きつけられる。憎悪の種。怒りの起爆剤。
会ったのは一度きりだ。まだボンゴレに来て間もない頃だった。少しの間面倒を見てやれと言われ、二人きりで広い部屋に閉じ込められた。無論こどもの相手はしたことがない。それどころか嫌いだ。ろくに人とも関わってこなかった。自分が無視をしても放っておいても離れても、ちょこまかと付いてきたのはよく覚えている。鬱陶しいので睨んだら、服をつかんで来たのも覚えている。おずおずと見上げた目は、あの頃から変わっていなかった。黒を黒で塗りつぶしたような、

「……チッ」

無理に思考を打ち切って、ザンザスは髪をかきあげた。尋問はまだ続く。終わりは遠い。しかし殺されないだろう。それだけの実力を持っている。ボンゴレに自分は必要だ。ああ、しかし、もう少し顔をよく見ておけばよかった。頭の隅、半分無意識で呟いた。





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