「なんだと…?」

今度は目の前の彼が驚く番だった。
ツナも、リボーンくんも、獄寺くんも山本くんも、知らない人たちまでが私の言葉に驚いてこちらに視線を向けている。そう、私はなんの陰りもなかったはずである。
私は無知であるはずだった。

「ひぇ…や、あの、明らか似てない…というか……」

なお光が失せない赤い眼に怯えながら、そろそろと言葉を紡ぐ。調度いいタイミングかもしれない。いや、ツナが知ってしまった以上、今しかない。

「私、産まれたときからずっと記憶があるんです」
「……」
「忘れられないというか…瞬間記憶ほど精度がいいわけでもないんですけど…」

やはり怖いので少しずつ後ろに下がる。いつ蹴り飛ばされてもおかしくない威圧感だ。

「貴方の言ってることは合ってます。でも情報が欠けてる。」
「姉ちゃん……?」

絞り出したような小さな弟の声。大丈夫だよ、お姉ちゃんは思ったより強い人間なんだ、たぶん。

「私の両親は……父に殺されました。でもそれは二人が裏切り者だったからです。裏社会で裏切りがどれ程の罪か、それは私より貴方の方が知っているでしょう。」

彼の眉が不快そうに跳ねた。

「褒められた親でもありませんでした。産みの親とはいえ、満足に抱いてもらった記憶はありません。遊んでもらったこともない。育児放棄をする人間を親と呼ぶのは私は嫌です。自分達のことしか考えてなかった。」
「父は…家光さんは両親を、殺して、私を見つけました。まだ満足に話せない私は、怖くて訳がわからなくて、泣くしかなかった。あの炎の中のような感情は忘れられない。」

話し出すと止まらなくて、でも彼から目を剃らすと殺されそうなので、顔はあげ続けた。

「父は私を抱き上げて、泣きそうな顔で私をあやしてくれました。あんな安心できる温かい腕を私は知らなかった。そして上司の方にかけあって、部下を説き伏せて、私をここに連れてきてくれたんです。今の温かい家庭に。」

感情が頭を追い越してついに目が熱くなってきた。でもそらせない。

「母は突然きた私に並々ならぬ愛をくれました。それは弟ができてからもです。身重で、父がほとんどいない。一人で辛くて心細いときも、他人の私を大切にしてくれた。」

もう彼の顔は涙に隠されている。私はやっと弟の方をみた。

「私はツナと血が繋がっていない。だから代わってあげられない。苦しんでいるのを見るしかできない。その通りです。私は蚊帳の外。」
「姉ちゃん、」
「でも私は覚えています。父の優しい眼差しも、温かい腕も。母の柔らかな手も眩しい笑みも……ツナが生まれてきてくれたときのことも、初めて姉と呼んでくれたときのことも。」
「……」
「だから、」

もう一度、赤い眼の彼を見る。その目は落胆と裏切りと嫌悪と怒りと……あとは?

「ツナを動揺させようとしても無駄です。彼は私の弟には違いないんです。大切な家族です。」
「……テメェ」

彼の手が、光始めた。いつかの父のように。いやまって、これ、

「、ザンザス!」

ツナが叫びながら私たちの方へ向かってきた。でもこの距離じゃ間に合わない。まってこれだけは言わせて下さい。散々語ったけど!

「あああああの!」
「かっ消えろ」
「貴方のことも覚えてるんでしゅ!?」
「は、」

最後噛んでしまったけど、それは私のせいじゃない。猛スピードで私の腹を抱えて飛んだ弟のせいである。そしてその衝撃のせいか、はたまた緊張の限界か、私は気を失ってしまった。彼がどんな顔をしていたのか、私にはわからなかった。

[ 4/22 ]

[*prev] [next#]




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -