踊り出すその脚が
えーっと…………これは、どうしたものかな……
高校の友人とテスト勉強をしてきた帰りだった。通学路は母校である並盛中学校を通るので、今日も同じように中学を囲む壁を伝って歩いていたのだ。晩御飯は何かな、とか。リボーンくんたちはもうみんな家に帰ってるかな、とか。随分賑やかになった我が家を思い出して、明るくなった弟の子とも思い出して、自然と口角が上がっていた。早く帰ろうと小走りになった瞬間、そう、突然数歩先の壁が爆発した。それだけでもう腰抜けものなのに、更にそこからめちゃめちゃ怖い顔の男の人が血まみれで出てきて、私をみたと思ったら、小脇に抱えてしまったのだ。
「ひぃえ……」
意識を失わない自分がすごいと思う。粗相をしない自分もすごい。これがお母さんなら速攻フェードアウトだ。
「……姉ちゃん!?」
聞き覚えのある声にはっとして、顔をあげると、全身ボロボロの弟がこちらを見ていた。随分と驚いた顔だが、その額には炎が点っている。
…炎が点っている?
壁まで殴り飛ばしたザンザスが戻ってくるのに少し時間がかかった。不思議に思っていると、戻ってきた奴は姉を抱えている。全身の血というちがい失せたような心地がした。何故ザンザスが、姉を、姉を知っているのか。姉を抱えているのか、笑みを浮かべているのか。こちらに気がついた姉は自分の顔を見て驚いていた。隠していた死ぬ気の炎を見てか、怪我をしている自分を見てか。恐らくはその両方だろう。
「ツナ、」
「なんでここにっ、ザンザス、その人を離せ!」
「やはりな、テメェが家光の娘か」
ザンザスはどさりと姉を無造作に落とした。姉の呻き声を聞いて、今度は体から失せていた血という血が頭に上る。
「ザンザス、テメーなんのつもりだ?」
「そうだ、姉ちゃんは関係ない!」
「関係ねぇ?そうだな……だが余興くらいにはなる」
ザンザスが姉の方をみた。姉もザンザスの顔を見上げてた。嫌な予感がする。駆けつけてきた獄寺くんや山本の声が耳なりにかき消されていく。
「沢田綱吉、何故テメェが10代目候補だと思う」
「な、に、言って」
「何故姉ではなかったと思う」
「ザンザス」
珍しく焦ったリボーンの焦った声が遠くに聞こえる。すぐ近くにいるはずなのに、神経は全て目の前の二人に向いている。
「テメェとこのカスに、血の繋がりがねぇからだ」
頭の芯が雷で撃たれたようだ。ビリビリとしたような、冷えたような身の縮む感覚に襲われ、よろけて数歩下がる。心が嘘だと叫んでいるが、超直感が疑わなかった。リボーンの舌打ちが聞こえたようなきがする。手が、指が、足が目が動かない。
ザンザスは愉快そうに口を歪め、今度は姉に標的を変えた。
「テメェは父親とも母親とも血の繋がりがねぇ。テメェは家光に肉親を殺されたからな」
「……」
「ボンゴレの血が流れてねぇ。だからテメェには価値がねぇ。」
「やめろ」
「産みの親を殺した男に育てられた。しかもその血のせいでテメェは弟を護れない。蚊帳の外だ。気づいてただろう。コイツが妙なもんに巻き込まれるのを」
「やめろ」
「そしてそこにテメェの入る隙がねぇのを」
「やめろつってんだろ」
リボーンが放った弾でザンザスは口を閉じざるを得なかったが、それはもう遅すぎた。姉は俯いていて、顔が影って表情が読みとれない。その場にいる全員が姉に注目をしていた。その場に座り込んだまま、姉はもう一度ザンザスの方を見て口を開いた。
「知ってます」
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