くるり

あの忌まわしい目を手に入れた後も、骸は変わらず鯱を慕っている。そこには鯱との思い出に縋る気持ちと、彼女は決して自分を裏切らないという最後の望みがあった。その感情は幼い頃から変わらない。少年から青年になろうとしている今でも姿を見れば頬が緩む。だが、その感情とは相容れないものも自身の中に芽生えてきていて、骸はそれを持て余していた。自分がこの道を進んでいくに連れ、今の自分になるに連れ、かつてのように無邪気に駆け寄ることが余りに滑稽に思えてくる。犬にも千種にもとても見せられない自分。自分であり、自分でない姿に、ひとり精神世界で骸はぐるぐると考え込んていた。

「…ふぅ。」

そろそろ、彼女が眠りにつく頃か。考えていたせいか、なんだか彼女の顔を見たくなった。少し顔を合わせるくらいなら。骸は一呼吸置いてから、そっと目を瞑った。

始めてみたときから変わらない、彼女が見せてくれた美しい野に、ほう、と息を漏らす。ぐるりと見渡すと、少し離れたところでちょこんと丸まっている姿を見つけた。慣れた草の感覚に、ゆっくり近づいていくと、すぐに気づいてこっちを振り返る。彼女の輝いた瞳を目にした途端、なんだか急にバツが悪くなってきた。渦を巻く感情を隠し持って、久しぶりに見る彼女に微笑みかける。

「むくろ!」
「お久しぶりです…、」

姉さん、と言う言葉は声にならなかった。この自分が?そう言われた気がして。
ここ、座りな。嬉しそうに隣を叩く彼女に、少し離れて腰をおろす。彼女は特に気にした様子ない。

「何をしていたんです?」
「んー、むくろ元気かなって。考えてた。」

最近顔を見せてくれないからな。忙しそうだな、ちゃんと寝てるのか?止まることのない言葉には、しっかりと自分への労りが入っていて。素直に嬉しい。常の自分には縁のない落ち着くという感情に目を伏せると、不意に頭に温もりが降ってきた。

「…」
「お前が頑張ってるのは知ってるけど、頑張りすぎるなよ」


後ろ手に持っていた感情が一気に膨れ上がる。それは一刻も早く立ち去れと、己を蹴っているようで、でもまだこうしていたくて。ぐるぐると混ぜ合わさった不快が全身に広がる。それはジワジワと、されど一瞬であった。

「、そろそろ帰ります。」
「えっ…そうか。また話そうな。」
「…ええ」

まだ残りたい気がした。それを見ないように現実へとおちていく。クシャリと自分の髪を掴んだ。

くるり
(忘れたいような、そうでないような)

[ 7/22 ]

[*prev] [next#]




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -