一番流れ星

「マスルール」
「…ジャーファルさん」


夜、廊下を歩いていると優しく声を掛けられた。振り替えると、いつもの官服を身にまとったジャーファルが立っている。彼は袖で口元を隠したまま、ゆるりと目を細めた。


「少し、お時間よろしいですか?」
「はい」


マスルールが返事をすると、立ち話もなんなので、とジャーファルは庭の噴水の方へ歩いていった。マスルールも縁に座ったのを確認すると、ジャーファルはニコリと笑って前を見た。


「また鍛練をサボったそうですね。●●●の怒号が響いていましたよ」
「すいません」
「感心はしませんね。君はそこそこの腕前を持っているのに」
「…」


ジャーファルは困ったような、暖かい笑みを溢した。


「●●●も全力で戦える相手がいなくて退屈なんでしょう。なぜ相手をしてやらないのです?」
「はあ、なんていうか」


マスルールは気まずそうに首の後ろを撫でた。


「俺の剣は剣奴のなんで、相手を殺すためだけの剣なんっスよ」
「…」
「相手の急所を狙う技ばかりっスし、いかに早く殺すかに特化してるんで、」


そこまで言ってマスルールは、一瞬躊躇うように視線をさ迷わせた。


「先輩ほどの実力者相手だと加減できないんスよ。先輩の腕を見くびってるとかじゃなくて」
「…ふふっ」


成る程ねぇ。ジャーファルがそう言いと、マスルールは急に立ち上がった。


「もういいっスか。用事思い出したんで」
「ええ。引き止めてすみませんでした」


マスルールがジャーファルの視界から見えなくなるのと、●●●のマスルールを呼ぶ楽しそうな声が聞こえるのは同時だった。


一番流れ星

(とんだ惚気を聞いてしまいましたね…)

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