06



走る走る、風を切る音がビュンビュンとうるさい程に。今日は久しぶりにヨーロッパに戻ると言っていた。びっくりしてじゃあここは何処だと訊けば、返ってきた国名は聞いたことがない。アジアの小さな国だと言っていた。よかった、まだ陸続きだと思ってしまったのはしょうがない。だってまだ十二歳。そんなにそこら中行かれたんでは俺が心配すぎる。
それはさて置き、なぜ今走っているのか。簡単なことだ、ボンゴレが用意してくれたシートの飛行機の時間に遅れそうだから。聞けば通行手段はいつもボンゴレが手配してくれるらしい。自分はまだぺーぺーだから専用ではないんだと。


(イタリアにはフランスによってから帰る。結構有名な剣士が居るらしいからなぁ゙。そこそこ強いみてぇだ。)
(ふーん)
(お前…ちょっとは興味もちやがれぇぇえ!)
(ん……ん?)
(う゛おぉぉい…話聞いてたかぁ?)
(…それよりさ、)
(う゛おぉぉぉい!!まてコラァア!!)
(ごめんって。でさ、スクアーロって日本語話せるよな?)
(…完璧には話せねぇ)
(え、嘘だ)
(ぁ゙あ?なんで嘘つかなきゃならねぇんだ)
(じゃあなんで俺と普通に話してるんだ)
(はあ?)


ん?ちょっと待て。何か食い違ってるのか、もしかして。スクアーロは日本語が苦手で、でも俺とは普通にネイティブな発音で会話してる…と、言うことはだな、


(…スクアーロ、)
(ん?)
(俺って今何語話してる?)
(…ボケたのか?)
(違う、早く言え)
(冗談だぁ…イタリア語だぜぇ、それがどうした)
(…)


やっぱりか。私はイタリア語なんてこれっぽっちも習ったことがなかったのにこれはどういう事なのか。人格だから?まぁ、理由をつけるならこれしかないだろう。便利な機能である。…では俺はもう日本語が話せないのだろうか。それともまた意識さえすれば話せるのだろうか。

(スクアーロ、スクアーロ)
(次はなんだぁ)
〔俺、今何語話してる?〕
(おまっ、日本語話せたのかぁ!!)
(おお!できた)
(出来たぁ!?)


何事もやってみるものだな。あ、これってスクアーロに使えるんじゃないだろうか。いや、確実に使える。私は早くも彼の人格として役に立てるみたいだ。


(よし、決めた)
(あ゙?)
(スクアーロってさ、単語とかは大丈夫なんだろう?日本語)
(あ゙ぁ。けど話せねぇ)
(よくあるパターンだな。確かに日本語は難しいからな)
(で、何を決めたんだぁ)
(うん、そんなスクアーロのために)
〔これからは日本語で話そうと思って〕


我ながら結構いい考えだと思う。こういう言葉の問題は慣れるのが一番だと聞く。ずっと聞いていれば自然と身につくものだ。


(スクアーロはイタリア語でも構わない)
(お゙お)
〔最初はね〕
(…)


♂♀


(っはぁ…どうにか間に合ったぜぇ)
〔お疲れさん〕


ところ変わって今は飛行機の中。しかもファーストクラスだ。広い、凄い。
あれからは日本語で話していたのだが、どうやらスクアーロは聞き取るにも問題ないようで、イタリア語でスラスラ返してくる。まぁ、十年後にはペラッペラなわけだし、近いうちに日本語で返させてみようか。


(よし、俺は寝るぞぉ)
〔ん、おやすみ〕


やはり飛行機慣れしてるのか、シートに座るないなや寝る体制に入った。なんか腹立つな。


♂♀


(…はぁ)


…暇だ、物凄く暇だ。
人格って自分じゃ何も出来ないのかな。こう、入れ替わったりとか。二重人格の人って出来るんじゃなかったか?


(あー、稽古したい!)


結構大きな声で言ったにも関わらず、スクアーロの起きる気配はない。此方とは完全にシャットアウトされた状態だと言うことだ。どうしたものかとうんうん唸っていると、不意打ちに頭に強い衝撃と鈍い音。


(いっ!?たぁ……なにこれ…あ)

油断していた分、余計に痛い気がする。頭をさすりつつ、涙目になりながらその原因に目を向けると、そこには一本の木刀があった。

(…まじっすか)


私が欲しいと思ったから出て来たのだろうか。無造作に置いてあるそれを手に取り、軽く握りなおしてみる。独特の木の肌触りと微かな匂いがひどく懐かしく感じた。手になじむ形と使い慣れた重さにほっとする。1日使っていないだけなのに可笑しなことだ。そんな自分に笑えてきた。これじゃあ依存性だ。そういえば、私の頃は木刀を触らない日なんてなかったんじゃないんだろうか。


(これがあっての私みたいなものだからなー)


自分はつくづく変わってるなぁと思いつつ、一振り。ああ、これだ。この感じ。足りなかったものが埋まっていくような満足感に鯱は笑みを漏らした。心臓が高鳴り、気分は高潮する。まるで無くしたと思っていたお気に入りを見つけたような気持ちが体中を支配していた。楽しくて仕方がない。その思いだけが鯱の胸を支配する。一日やらなかっただけでこんなんだから、きっと自分は一生これを手放せないだろう。
黒い世界には暫く空を切る音だけが響いていた。


♂♀


(――ん?)


あれから何時間たったかはわからない。稽古をし始めると完全に一人になるのは俺の悪い癖だ。だが、それほどの集中力がプツンと切れてしまった。原因は体内の違和感。


(スクアーロが起きた…?)


だんだん感覚が掴めてきた。彼の意識が浮上したのがわかる。


〔おーい、スクアーロ!〕
(ゔ……ん?)
〔お、起きたか〕
(…あ゙ー)
〔おはよう〕
(ん゙、もう着陸だなぁ)
〔速いな〕


声が少し掠れてる、口開けて寝てたな。


(…オメェも寝てたのかぁ?)
〔いや、自主稽古してた〕
(は?)
〔なんか木刀降ってきたんだよ〕
(あ゙!?何でだ)
〔んなもん知るかよ。頭に直撃してさ、痛かった…〕
(…)


多分、今物凄く複雑そうな顔してるんだろうな。心の中は読めないがそれが纏う感覚的なものはわかる。そんなことを考えていると、体に強い衝撃。それはもう、ガクンと。


〔着陸した?〕
(あ゙あ、)
〔楽しみみたいだな、心が弾みに弾んでる〕
(当たり前ぇだぁ)


スクアーロがニヤリと笑う、本当に楽しそうだ。つられて俺も笑った。息苦しい機内から一歩。獲物を食らう前の鮫の足取りはかるかった。



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