03



何時間がたっただろうか。今は景色が、もう一人の自分が激しく動き回っているので、流石に少し気持ち悪くなってきた。あれからずっとこの調子だ。もう空も薄暗くなりつつあるというのに。***は思わず漏れそうになった溜め息を慌てて飲み込んだ。
あれからは大変だった。自分が人格発言をした後、当然状況が全く把握できていない彼は訳が分からないと叫んだ。混乱するのも当たり前だ。私だって未だ完全に頭の整理がついたわけではないのに、彼の方からしてみれば突然自分の中に全く知らない誰かがいると言うことになる。しかもそれがもう一人の自分などと言い出すのだ。私なら間違いなく自分はおかしくなったと思うだろう。彼には少し可哀想なことをしたかもしれない。
それから彼はどうしても認めたくないのだろう、私を探し始めた。いくら話しかけても無駄なようでそれからはずっとこうだ。そうして今に至る。
どれだけ探すのだろうかと考えていたその時、ようやく彼がとまった。やっと探すのを諦めたらしい。まあ、なんと粘り強い子であろうか。空はもう闇に包まれつつある。感心すると共に***は今度こそため息をついた。


(認めてくれませんか…?)
「あ゙ぁ……、もう…認めるしかねぇだろ…」


諦めが含まれたその言葉に、***は少し可笑しくなった。彼が必死に自分を捜している間、こちらのは笑う余裕が出来るくらいには頭の整理がついたようだ。


(それはよかったです。私としては、認めてもらわなければどうにも出来ませんから)
「…」
(もう暗いです。家には帰らないのですか?)
「その前にお前のことを教えろぉ」
(私はあなたの中ですから、帰りながらでも話しますよ)


自分がそう言った後、いきなり視界が飛んだ。それだけでも十分驚いたのに、次に足がついたのは、


(……屋根…?)
「どうしたぁ。」
(い、いえ。何でもないです…)


アクションスターか何かなのだろうか。いや、いくら運動神経がよかろうと、これはあり得ないだろう。人並み以上の運動神経だ。
どうやらこれからもう一人の私となる人は少なくとも普通ではないらしい。


「?…ならお前のことを話せ」
(あ、はい。そうですね。ですが…そう言われましても私はただの人格ですので説明と言ってもですね…)
「何でもいい。これからずっと一緒なんだろうからな゙ぁ」
(急にフレンドリーですね…んー……あ、)
「何だぁ?」
(剣術が好きです)
「あ゙あ!?」
(え、え、へ…変ですか?)
「誰もんなこと言ってねぇだろぉ!寧ろわかってるじゃねぇかぁ!」
(え…)
「俺も剣使いだぁ」
(ええ!?)


これは驚いた。
今時剣術自体出来る人も少ないのに雰囲気からしてこの人は相当の剣好きらしい。自分もだとは思うが、こんな人は凄く珍しい。
***は嬉しくなった。こんなに剣のことがわかる人が今まで自分の周りにに居ただろうか。父も弟も剣に打ち込んではいるが、自分のように剣が好きでやっているようには見えない。当たり前といえばそうなのだが、どこか強制的で己のように自ら剣を選んだようではなかった。不謹慎だと思うが、この人の中でよかったと強く思う。


(凄い偶然ですね…)
「お前とは気が合いそうだなぁ!」
(ええ、私もそう思います)


ここまで来て***はハッとした。そう言えば、自分はまだ彼の名前を知らない。私としたことが、うっかりしていた。無礼きわまりない、成人した者として恥ずかしいばかりだ。
***の家は剣を習うだけあって、礼儀や作法に厳しかった。そこに自身の性格も手伝って、***は特別そういうことに敏感な性格なのだ。少々自己嫌悪に陥った後、***は急いで口を開いた。


(あの…!)
「ん?」
(すみません、お名前を伺ってもよろしいでしょうか)
「そう言えばまだ言ってなかったかぁ?」
(はい)


だが次の瞬間、##NAME1##はあまりの驚きに目を見開いた。
そんな、まさか、


「スクアーロ。スペルビ・スクアーロだぁ」
(……え)


スペルビ・スクアーロ。その単語でまず始めに思い浮かぶのが、大好きなマンガの憧れのキャラクター。…もしかしたら、これがいつか姪の言っていた"トリップ"というものなのだろうか。聞いていたのとは少し違うきもするが……。いや、まだそうと決まったわけではない。偶々、同姓同名の人なのかもしれない。
この後、もういくつかの質問をスクアーロにしてみたが、すればするほど彼は自分の思っている人物と合致していった。銀髪、眼の色も銀、イタリア人、好きな食べ物は……そして極めつけは剣使い。これはもう認めるしかないだろう。寸分違わず暗殺部隊の彼である。


「さっきから何なんだぁ」
(いえ、色々訊いてしまってすみませんでした。最後に一つ、年齢を伺っても?)
「確か、今年で十二歳になる」
(!…そうですか、ありがとうございます)


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