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スクアーロが長期休暇を取ってから早数日、今日も剣帝は書類仕事に追われていた。タガミは監視の腕をあげる一方なので、日が経つ毎に抜け出すのが難しくなっている。
ヴァリアーは精鋭部隊の名に恥じぬ、実力ある人間ばかりだ。その為、本業である実務的な仕事はほぼ部下で完遂できる。部隊を束ねる立場となると、自ずととフォローや雑務が中心になる。だが自分もヴァリアーの血の気が多い人間の一員であり、剣技の上達と強敵を求める剣士でもある。責任ある立場で、ボンゴレのボスからの厚い信頼があるとはいえ、やはり前線に出て戦いたい。強敵と立ち合いたい。楽しみであるスクアーロはまだまだ伸びたりないし、今はここにいない。大嫌いな書類仕事の気を紛らすものがあればなあ…脱走という文字が脳裏をちらついたところで、扉から軽いノックの音がした。

「失礼します。おや、ちゃんと仕事してるみたいですね。珍しい。ずっとその調子でいてくださればいいのに」
「お前ほんと失礼だな」
「そういうのは日頃の行いを振り返ってから言ってください」

タガミが蔑んだ視線を投げてくる。長い付き合いのこの男は、部下という立場になってからも、自分に遠慮がない。むしろ部下であるときの方が自分の意見をよくいってくるくらいだ。

「まったく…貴方に客人ですよ。」
「客?」

自分を訪ねてくる人物は珍しい。ドニが依頼でも持ちかけてきたか?何にせよこの底無しの文字から離れられるなら万々歳だ。椅子に吸い付きそうになっていた腰をあげる。

「誰だろ…」
「オレだぞ」
「あれ?珍しい。リボーンじゃないか」

タガミの声を待たずに部屋に入ってきたのは、知る人ぞ知る殺し屋のリボーンだった。小さな体に不釣り合いな 黒のスーツとボルサリーノは健在だ。

「わざわざ何か?依頼…ではなさそうだけど」

デスクの前に移動して、ソファに座るように促す。ローテブルを挟んで自分もソファにかけ直した。

「まーな、スペルビ・スクアーロはいるか?」
「…いないけど」
「なんだその間は」
「別に」
「アイツに会いに来たわけじゃねぇし、横取りに来たわけでもねーぞ」

彼が今キャバッローネフォミリーのボスを育てていることは知っている。そしてボスだけではなく、信頼できて腕のたつ人間をスカウトするのも彼の役目だ。自分の心配を見透かして、目の前の幼子はニヤリとわらった。
見透かされたことに苦い思いをしていると、コーヒーを淹れたタガミが戻ってきた。部屋に深く芳香な豆の香りが広がっていく。

「エスプレッソでよかったですよね?」
「ああ、さすがだなタガミは。超優秀な部下だ、テュールには勿体ねーぞ」
「ちょっと」
「ありがとうございます。しかしお身体のことを考えると、あまりにカフェインが多いのですが…」
「心配無用だぞ。最強のヒットマンとなると違うんだ」
「そうですか」

ふっと笑みを漏らしたタガミが立ち上がる。

「スクアーロは本当にいませんよ。彼、今長期休暇で旅に出てるんです」
「ほー、なんだ、育児放棄か?」
「違うから!アイツは誰かに指導されるより自分で学ぶタイプなの!というかほんと何しにきた?暇なの?」
「暇なわけあるか」

リボーンは帽子を押し上げてまた笑った。

「アイツが特別おもしれー奴だから、お前に聞きにきたんだぞ」
「…気づいてたのか。学校で会うもんなぁ。というかやっぱ暇なんじゃん」
「殺すぞ」

リボーンはスクアーロの中にある、もうひとつの揺らめきについて聞きにきたのだ。キャバッローネの跡継ぎとスクアーロは同じ学校である。ならばリボーンとスクアーロが顔をあわせることはあり得るし、彼ほどの実力者ならスクアーロの特異性に気がついて当然と言えよう。

「恒常的な憑依とは珍しいな。幻術師の素質があるんじゃねぇか?」
「いやそれはない」
「フーン、じゃあサブの人格の方に素質があるのかもな。確かにアイツ本人よりいくぶん落ち着いてる奴だったし」
「…ん?」

テュールはリボーンのセリフに感じた違和感を聞き逃さなかった。否、逃せなかった。それではまるで中の人格に会ったような言い方ではないか。

「会ったぞ。正しくは遠目に見た、だがな。」
「嘘!?」
「んなことで嘘つくか。一度学校で入れ替わったんだ」
「まって、信じられない…えっずる…ずるい…」
「そうは言われてもな」

意地の悪い笑みのリボーンに対し、テュールはソファから身を乗り出したままがっくりと肩を落とした。また心を読まれたことなんて気にならない。自分が会いたかったもう一人のスクアーロ、まさか他人に先を越されるとは…

「いったいどうしたら入れ替わったの」
「頭に石投げて気絶させた」
「げぇ…やっぱり気絶がいいのか」
「二度目があるかは知らねーがな。それにしても随分とお熱じゃねーか」

きょとん、と要領を得ない顔をするテュールに、リボーンは少し驚いた。

「なんだ自覚ねーのか?」
「お熱っていうか…俺はスクアーロの成長が楽しみで、もうひとつの人格の方は、一度会いたいなーと…珍しいし」
「他人に執着しないお前がか」
「だって気になるじゃないか。どんな性格なのか、名前はあるのか、笑い方とか仕草とか、記憶があるのかないのか、体がない存在がどんなものかって」

それをお熱というんだがな。リボーンはそう返す代わりに、エスプレッソコーヒーを飲み干した。



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