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暫く無言が続いて、タガミは手に持ってた書類を机に戻した。カサリ、という乾いた音だけが部屋に響く。

「君も組織の人間だ。簡単にいうが、相応の理由が必要に」
「いいよ」
「は〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜アンタほんと黙ってられないんですか???」

いいんだ…鯱は拍子抜けして呟いた。しかしスクアーロの気が緩む気配はない。ピンと張られた糸のように凛と、黙って二人をみている。
テュールはスクアーロを真っ直ぐみている。その瞳はいつかの挑発的な色が濃く出ていた。テュールはスクアーロを試しているのだ。

「今のままじゃ正直弱いっていうか…がっかりしたんだよね。まあこっちで新しいメニュー組んでもいいんだけど、」
「…」
「そういうの、君に合わないでしょ?」
「あ゛ぁ」

テュールは考えていた。スクアーロは強い、精鋭部隊であるヴァリアーの中でもそれは変わらない。しかし、彼の実力はまだもっと高みへ行ける。それは他人に提供されるもので到達できるものではなく、獰猛に探し求め、自ら嗅ぎ当て、貪欲に食らいつき、飲み込んでこそのものだ。スクアーロという人間の強さは、そうやって築かれてきたものだ。他人が耕したところで育つものではない。
そしてもうひとつ思うところがあった。スクアーロの中に存在するもう一つのエネルギー、炎のように揺らめく魂のような何か。彼の別の人格が、まだ少し危なっかしい。ほとんどスクアーロの体に馴染んではいるが、まだふわふわと浮いたところがある。つまり、完全にスクアーロと繋がっていないのだ。この炎が消えるか根付くか、それもここにいては進展がないだろう。彼の成長に大きくか変わるこの問題も、早々に片付けたかった。

「長期休暇ね、明日からでもいいよ。ただし、帰ってきて俺の期待を裏切らないように」
「…フン、言われるまでもねぇ。テメェなんざ」
(あっ、こら!)
「…チッ」
「ん?どうしたの??」
「なんでもねぇ。俺がいねぇ間仕事サボるんじゃねぇぞぉ!」

タガミは暫くだ待って上司の顔を見ていたが、諦めたようにため息をつくと、眼鏡のブリッジを押し上げた。

「俺は蚊帳の外か。まあボスがそういうならな。スクアーロにまで言われてるんだ。仕事、勿論これからはスクアーロがしてくれてた分もやってもらうからな。」

暗殺部隊に似つかわしくない、ええ!とテュールの不満そうな叫びに、鯱は堪らず笑ってしまい、スクアーロはようやく緊張を解いた。

▽△▽

朝早く、スクアーロは少ない荷物と一緒に、本拠地を後にした。見送る人間はいなかったか、そんなことは気にも止めない。ただ人通りの多いところまでは、車で送ってもらえることになっていた。
期限は三週間だ。それまでに自分は成長しなければならない。これがほんと一段階にすぎないことは、スクアーロにも、そして鯱にもわかっていた。
鯱は己に流れてくるスクアーロの感情に、うっすら口角が上がる。

(楽しみなんだな)
(そりゃあな。もう二度とあんな無様はごめんだぁ。腕を磨いて戻ってきてやる)
(うんうん、組織の中も勉強になったが、剣となると人も刺激も少ないからな。俺はスクアーロの選択、良かったと思うぞ)
(フン、剣士狩りが手っ取り早いんだぁ。色んな剣筋、色んな性格の人間から奪えるからなぁ)
(やっぱり実戦が一番なのか)
(当たり前だろ)
(そっか……羨ましいな)

鯱も今までの剣術人生において、勿論実戦が無かったわけではない。しかしスクアーロと決定的に違うのが、あの燃えるようなやり取りだ。当然ながら、鯱…***の実戦はあくまで稽古や試験の範疇であった。命を乗せるからこそ得られる技術、心、思考、動き。あの轟々と身体中をめぐる血潮の感覚を、素直に羨ましいと思った。…自分が命をのせられる覚悟があるのかは、まだわからないが。

(…といっても一ヶ月もないのか、気合いいれないとな)
(あ゛ぁ。ぜってぇに強くなってやるぜぇ)



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