スクアーロはトップのAクラスに振り分けられていた。勿論これでディーノとも離れるので、以前より幾分快適に過ごせそうである。
「ちゃおっす」
と、思っていたのだが。
「んだぁこのガキ」
(あっ………)
(んだぁ、知ってるのかぁ?)
(えーっと………ディーノと一緒にいるのを見た)
(そうだったか?)
鯱が動揺した様子だったので、何かあるのかと更に聞こうとしたが、それは目の前のスーツを来た幼子に遮られた。
「無視とは言い度胸じゃねーか」
「あ゛?何の用か知らねぇが、俺はテメェに用がねぇんだ。失せろ」
(あっ、ちょ……!)
鯱の焦った声が聞こえたが、それに応えるより先に、また目の前の幼子が口を開く。
「テュールの野郎、 飼い犬の躾がなってねぇな」
ボルサリーノの下で、幼子がニヤリと笑う。
「んだとォ!?てかテメェ、アイツの知り合いか!」
「まあいいぞ、一流は格下が吠えても無視するもんだからな」
「かっ捌く………!!」
無視どころか格下と罵られ、黙っていられるわけがない。スクアーロはすぐさま剣を抜きグッと構えた。
(こ、こらスクアーロ!止めておけ!)
(うるせぇ!黙ってられるかァ!)
「ふむふむ、やっぱりか。テュールのやつ、おもしれーもん捕まえたじゃねぇか」
「ぁあ゛!?」
「今日のところは確認だけのつもりだったからな。ディーノを扱く時間だ。ちゃお!」
「あっ、テメェ待ちやがれ!!」
幼子は首にぶら下げたガラス玉のようなおしゃぶりをキラリと光らせ、風のように去ってしまった。スクアーロはやり場を失った剣を仕方なく収め、同じくやり場を失った怒りを叩きつけるかのように、強い足取りで帰っていった。
鯱は事が荒立たずに済んだことに安堵し、心の余裕ができたところで汲み上がった疑問に眉を寄せた。
(いったい何のためにスクアーロに接触したんだろう。)
もしかしたら、彼は自分の存在に気が付いているのかもしれない。一度入れ替わったところに会っているし、テュールやタガミのように生命エネルギーを見たのかもしれない。
(ううん、いや……リボーンなら大事には至らないと思うんだけど……)
(なんか言ったかぁ)
(いいや、何も?)
リボーンの立場なら、誰かにいうようなことでもないはずだ。気にしていても始まらないことなので、鯱は一度頭の隅に寄せておくことにした。
リボーンは池から這い出たずぶ濡れの教え子を視界に認めると、ひょいひょいと身軽に飛んでその無防備な後頭部に蹴りを入れた。
「いっっってぇ!!」
「へなちょこが、何遊んでんだ」
「あ、遊んでねぇよ!どうみても溺れてただろ!?」
「んなこと堂々と言うんじゃねぇ。死にたいのか?」
口ではそう言ったものの、案外鋭い教え子は、自分が機嫌がいいのを見抜いたらしかった。
「…どうしたんだ?」
「何でもねぇ。さぁ、今日もぬっちょりコースがお前を待ってるぞ」
「ぬ、ぬっちょりは勘弁してくれ!」
ディーノに礼を言わせたときに気付いた違和感がハッキリと形になった。スクアーロという少年は、もっと特殊な、興味を引く人間だ。
今度会ったときは、是非とも一度、いやもう一度お目にかかりたいものだな。
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