36



パチリ。目が覚めると、そこは真っ暗だった。どうやらスクアーロはまだ寝ているらしい。今は何時だろうか、鯱はぐうっと伸びをした。
不意にガチャリ、と小さな音がした。聞き逃しそうなほど小さかったが、ドアが開く音だ。一気に脈が上がり、思わず息を止める。誰か入ってきた。


(スク、スクアーロ!)


声を張って呼んでみるも、反応はない。殺されるかも知れないというのに、呑気にねてやがる。スクアーロが気づかないとなると、余程の手練だ。焦りばかりが募っていく。どうしよう、どうしよう。


「こんなことしていいと思ってるんですか?」
「しっ、スクアーロ起きちゃうじゃん」
(っえ!?)


耳に届いた囁きはスクアーロの上司二人だ。うわあもう、吃驚した…鯱はまだ暴れる胸を押さえて、大きく息をはいた。まったく、人騒がせな…でも、どうしてここに?しかも様子からするに、スクアーロには起きてほしくないようだ。鯱は二人の会話に耳を済ませた。


「大体、見ただけでわからないでしょう」
「いやあ、スクアーロが寝てる間に入れ換わるかもと思って」


入れ換わる…?一体なんのことだろう。スクアーロが誰かと手を組んでいるとでも思っているのだろうか、それならば、とんだ勘違いだ。しかし、そんなそぶりをスクアーロが少しでもしたことがあっただろうか。鯱は、続く会話に神経を集中させた。


「やっぱり違うんじゃないですか?」
「えー、疑うっていうの?」
「や、そうじゃないですが…二重人格って…スクアーロが?」
(っ!?)


ワッと全身を飲み込んだのは焦燥。襲ってきたのは疑念と混乱。どうしよう、スクアーロ。寝てる場合じゃないって。口を開いても掠れた短い息しか出てこない。何でバレた?そう思わせる行動を、スクアーロは一度もしていない。そりゃあ、自分と話してニヤニヤしてるときもあったが、それだって自分の存在に直結はしない。ちょっと気持ち悪いくらいだと思う。一年前の、あの老人以来だ。


「初めて会ったときはちゃんとわからなかったんだけど、二度目で確信したんだよねー。ほら」
「うーん…?あ、ほんとですね」
(なにが)
「確かに、生命エネルギーが二種類…集中しないとわかりませんが」


生命エネルギー…?死ぬ気の炎的なものだろうか。どうやら、それが自分とスクアーロで別物らしい。よくわからないが、違うのは当たり前だと思う。自分はスクアーロの一人格ではあるが、スクアーロ本人ではない。元は全くの別個体なのだから。


(それにしても…)


生命エネルギー…そんな見方があったとは。あの老人もそれでわかったのだろう。田上さんの様子からして、余程訓練を積んだ人にしかわからないようだが。疑問を拭えて、とりあえずは安心した。…まだまだ油断はできないが。とりあえず、


(スクアーロ起きろよ…)
「どんな人かなー、合ってみたい」
「んな無茶な…さぁ仕事に戻りますよ!」
「げぇ…」


- 37 -


[*前] | [次#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -