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スクアーロの日常に、目と肩の凝りがプラスされた。日常と言うほど頻繁ではないが、たまに手伝う量が半端じゃない。一週間ぶりにみた紙の山は相変わらずだった。
剣帝は元々仕事ができる人間であるので、やり始めれば後は早い。サボりぐせが目立つが、殆どはタガミで捌ききれている。しかし、あまりに溜まってくると、自分が駆り出されるのだ。本当に助かるとタガミが疲れた顔で笑っていたのはまだ記憶に新しい。
スクアーロはぐっと延びをした。自分の生活も随分変わった。任務で剣士以外とも殺り合うようになった。強い相手と巡り会える機会も増えた。剣帝がごくたまに相手をしてくれることもある。机に向かうことも増えたが、文句は言わない。というか、鯱が怖いので言えない。ただ、学校は暇で仕方がないが。
明日は久しぶりにその学校である。


(早く寝ろよー)
(剣帝も学習してほしいぜぇ…)
(あれ絶対わざとだって。直らないよ)
(だよなぁ…)


溜め息を吐いて、スクアーロは一人には広すぎるベッドに潜り込んだ。


(おやすみー)
(お゙う)


♂♀


「う…?」


鯱はパチリと目が覚めた。目に入ったのは白体を起こして辺りを見回しても白しかない。おや、これはもしかして。鯱の胸に期待が灯った。


「おねえちゃん!」
「うわっと…久しぶり、む…少年」
「うん!よかったー、しんぱいしてたんだ」
「約束しただろ?」


背中に抱きついてきたのは小さな骸だった。
久しぶりにみた彼は前の面影はなく、普通の少年といたって変わらない。頭を軽く撫でてやると、骸ははにかんでギュッと抱きつく手に力を入れた。可愛い。凄く可愛い。


「あのね、ずっといたいのがまんしたんだ。ないたらおねえちゃんにあえないとおもって」
「そ、うか。それは凄いぞ!偉いなぁ!」
「えへへ」


自慢気な笑みが純粋で眩しくて、鯱は涙が出そうになった。


「ねえ、きょうはいっぱいおはなしできる?」
「どうだろう。でもまた目が覚めるまで話そうか」
「うん!」


私の口から出る在り来たりで素晴らしい世界を、骸は目を輝かせて聞いていた。青い空にはふわふわの真っ白な雲があって、鮮やかな緑色の芝生や木、色とりどりの花が風に揺らめく。そんな話をしていると、コトンと骸がくびを傾げた。


「どんなのかわかんない」
「あ、そうか…うーん」


これは困った。形や大きさは説明出来ても、色は言いようがない。実物を見るのが一番早いのだが…。


「あ」


もしかしたら、再現できるかも知れない。何せここは夢なのだし、木刀の要領でやれば…


「ちょっと目を閉じてね」
「うん」


骸ががギュッと目を瞑るのを確認したあと、鯱も念ずるように、可能な限り細かく鮮明に想像してみた。
始めに違和感を感じたのは足。くすぐったい感触にビックリして目を開けると、そこには柔らかい緑が生い茂っていた。同じく目を開けた骸はポカンとしたまま恐る恐る地面に手を伸ばす。


「わあ…」


次に感じたのは頬だった。撫でるように吹く風に骸はハッと顔をあげる。先程の真っ白な空間は、緑や青の鮮やかな色で埋め尽くされていた。


「すごい!すごいね!」


キャッキャと喜んで走り回る骸に、鯱はホッと胸を撫でた。どうやら成功したらしい。骸が喜んでくれて何よりだ。しかしなぜ、感触までも骸が感じれるのだろうか。そんなことを考えていると、すうっと自分の体が透けていく。もう時間か。名残惜しい。様子に気付き、泣きそうな顔で此方に駆けてくる骸の頭を一撫でして、鯱は意識を手放した。

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