34



(あああ…うう)
(…)
(うわあああ)
(うるせぇぇえ゙え゙!!)
(だってヤバイよスクアーロおお!)


鯱のため息に自分が溜め息を吐きたくなる。鯱がぐずぐず言っている理由はわかっている。ボスの、テュールへの非礼だ。礼儀にうるさい鯱はこれがどうしても許せないらしい。自分からすればそんなことは悩むようなことではないのだが。つくづく変わっているなと思う。

(アイツはそれを楽しんでたんだぁ。気にすることねぇと思うがな゙ぁ)
(でもさぁ…)
(怒りはすれど、悪く思うことなんてねぇと思うぞ)
(そうかなぁ)
(そうだ。俺は、もうアイツをボスだと思わねぇことにした!)
(ぶっ…そ、それはちょっと)


クスクスと笑う鯱に、スクアーロもつられて口角を上げた。端から見れば一人でにやけていることになるので慌て戻したが、幸い前を歩くタガミは気づいていないようだった。テュールは先ほどタガミにこれでもかと言うほど怒られ、渋々部屋に戻っていった。あの十数分で二人の関係と日常はよくわかった。特に、目標の剣帝があれとは…なんだか、拍子抜けだ。
歩いているのは、ボスを含むトップレベルのフロア。普通の隊員ならまず来ることはない。自分も随分偉くなったものだ。たった一回、しかもあんなに簡単な任務で。


「ここが新しい君の部屋だ。」


そういってタガミが入ってみせた部屋は、前のものの三、四倍はあった。


(うわあ…贅沢)
(無駄に広いな゙ぁ)


何もかもが大きくなった部屋をぐるりと見渡す。タガミは少し口の端を上げて、壁にもたれ掛かったままそれを見ていた。


「君の仕事は私の補佐だが…まあ、名目だけだろう。仕事は教えるし手伝ってもらうがそれも多くない。」
「つまり?」
「今までより強い相手と戦える」
(おおー)
「書類整理の仕事が増えるけどね」
「げぇ…」


ニヤリと笑ってタガミは上体を起こした。


「じゃあ、早速手伝って貰おうかな」


ボスが溜めてしまってね。と苦い顔をするタガミに、スクアーロと鯱は何も言えなかった。
ノック無しに入ったのは執務室。中にはパソコンデスクが二つとソファーとローテーブル。本来ならスッキリした部屋なのであろう。しかし、デスクいっぱいに積み上げられた白い紙の山が、そう思わせることを邪魔していた。スクアーロも鯱も、こんな量の書類はみたことがない。口元がひきつるのがわかった。


「ちょっとは減らしたみたいですね」
(これで…?)
(ありえねぇ…)


スクアーロは案内されるがまま、ソファーに腰掛ける。剣帝は口を尖らせて、椅子に乗ったままクルクルと回って見せた。


「こんなん終わるわけないってー」
「終わらせるんです。スクアーロにも手伝わせますから」
「じゃあスクアーロやって!」
「あんたの仕事でしょう!」


おお、怖い。そういって机に向かうボスをみてタガミはこめかみに手を当てた。スクアーロは同情し、鯱は軽く相棒の未来を見た気がした。いや、これより酷いか。可哀想なスクアーロ。しかし、そうなったときのために、これはいい経験になるだろう。実力だけではどうにもならないこともある。


(未来のためにも田上さんのためにもがんばれ)
(お前が羨ましいぜぇ…言われなくても頑張るがな)
(お、めずらしー)
(うるせぇ!)

- 35 -


[*前] | [次#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -