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投げやりな字の報告書と部下の証言によれば、応援に向かった部隊が着いたときには、既に組織は無くなっていたらしい。もっと正確に言えば、生存者は少年一人だったのこと。


「慣れている私でも、あれは驚きましたね。返り血にまみれて突っ立ってるときの目ったらもう…」


部下の一人はそういって、少し気味悪そうに説明してくれた。奇才、鬼才、天才、異端、異常。彼にはすべてが当てはまる。まれに見る高い能力は、周りから見れば恐れ以外の何者でもない。ここではプラス嫉妬といったところか。彼はここにいられなくなるかもしれない。田上はため息をついた。いったい自分の上司は何を考えているのか。書類の山にまみれている目の前の男を、あきれ半分に睨み付けた。


「ボス」
「んー?」
「これ、報告書です」
「え、そんなの後でいいでしょ。置いといて」
「スクアーロの」
「見せて!!」


引ったくるように奪った紙を、テュールは期待いっぱいの目で流し読む。その視線が下にいくにつれて、キラキラしているのが嫌でもわかった。


「すごい!流石スクアーロ、俺が目をつけただけある!」
「まあ、裏ではルーキー扱いですからね。仕事してください。」
「決めたっ」
「何をですか?手を動かせ」


こちらもある程度書類の積まれた自分の席に腰を下ろして、視線を向けた。テュールはニィっと悪戯を思い付いた子どものように笑った。否、それよりも随分たちが悪い。


「あのこ俺の直下につける。シュウの補佐!部屋も移動ね」
「はあ?何いって…わかりましたよ。伝えておきますからその間にその山片付けておいてくださいよ」
「なにそれ鬼畜…!」


喚く上司を無視して、田上は座ったばかりの席を離れた。


♂♀


「…というわけで、君は今日から副隊長補佐になった」
「マジか」
(いやいやいや)
「部屋も移動だから荷物を纏めてくれ。一時間後に来るよ」
「…わかった」


ドアが閉められてもスクアーロは立ったまま動けなかった。理由はこの間の任務で間違いない。最低ランクとはいえ、組織を一人で潰したのだから。しかし、それにしても飛びすぎてやしないか。


(…ドッキリとか?)
(ヴァリアーに、それも副隊長にそんな暇あるかぁ?)
(あー…昇格おめでとう)
(…あ゙ぁ。実感湧かねぇ。が、俺の実力なら当然だろ!)


スクアーロはやっと荷物をまとめ始めた。ベッドのしたからボストンバッグをとりだし、少ない私物を詰め込んでいく。昇格だろうがなんだろうが、強い奴と戦えて、自分の剣技が磨かれるならそれでいい。
そういえば、と鯱が声をあげた。

(剣帝に会えるな)
(あ゙ぁ、早く戦ってみてぇ!)
(ははっ、それはどうかなぁ)


入隊しておおよそ半年が経つが、いまだにボスの顔は見たことがない。しかし直下に就くなら確実にお目にかかれるだろう。スクアーロは胸を踊らせ、鯱も少しだけ期待に胸を膨らませた。

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