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刃同士が思い切りぶつかる。鯱は思わず目を瞑った。大きな音が絶え間なく鳴り響く。敵の組織に気付かれていないのは、距離のおかげ。しかしそれも時間の問題だ。
予想外に長引く戦いに、一方は嬉しそうに、もう一方はイライラしていた。鯱はハラハラとドキドキが一緒になって、でも何処か映画を観ているような気分だ。スクアーロが毎日鍛練を欠かさなかったことが、今の一つ一つの動きに現れている。この短期間で、スクアーロは着実に腕をあげていた。
男の動きがいよいよ鈍くなってきた。先程スクアーロに斬られた足からは血が止めどなく出ている。医療をかじった自分としては、どうしても気になってしまうところだ。
息も上がっている。もはやフェアな戦いではない。スクアーロが一方的に獲物をなぶっているだけだ。鯱はこういうのは好きじゃない。相手にとっても屈辱的だと思うし、何が楽しいのかわからない。スクアーロの悪い癖の一つであり、傲慢と油断からくる行動は剣として美しいとはいえない。


(…スクアーロ、その辺で止めな)
(あ゙、またやっちまったかぁ)

スクアーロは無意識にやっていたことに、ガシガシと頭を掻いた。これはまた鯱にどやされる。スクアーロは改めて男を見た。
男はもう立つ力すらなかった。しかし、恨めしそうな視線はスクアーロから外れることはない。少し離れたところにある自分のナイフに、必死に手を伸ばした。ズズ、と這う砂の音。血と砂にまみれた男。震える指先。流れ続ける血、血、血。立ち込める匂い。風はない。音は男が這う音だけ。
スクアーロは剣を構えた。もうこの男から盗めるものは盗んだと思う。


「楽しかったぜぇ」


♂♀


(だいたいお前は、)
(わかったっつってんだろぉ!)
(何回目だと思ってんだボケナス!恥を知れ!)


剣の美しさについて語る鯱は勝負中の自分より怖いと思う。スクアーロはげんなりした。
鯱は普段あまり自分の考えや行動に口を出さない。お節介や助言はあるが、基本の見守る体制は崩さない。兄と言うよりは姉のようだと思う。しかし、剣の美しさについてはそうはいかない。それは耳にタコができるくらい聞いてきた。しかし、スクアーロには今一鯱のいう美しさや清さが理解できないでいた。そんなものが必要だとは思えない。楽しめたらいいんじゃないだろうか。そんなことを考えていたら突然鯱の口がピタリと閉じた。やっべ、聞こえてたか?スクアーロは長引く説教を覚悟した。これから壊滅しにいくんだがな゙ぁ…


(…スクアーロ)
(ゔ)
(ハァ…悪かったな)
(…え゙、は?)
(押し付けは確かに良くない。私とスクアーロじゃ考えも価値観も違う。すっかり忘れていた)


まさか謝られるとは思っていなかったので、スクアーロは何だか居心地悪く感じた。

(でもな、いつかわかるときがくる)
(…)
(…と思う)
(ちょっと待てぇ゙!)

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