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裏切り。その言葉に該当するのは一人しかいない。鯱はザワザワと波立つ胸を沈められない。汗がぶわり、と吹き出てきた。スクアーロの勘が、見事的中していたというわけだ。
ザァ、と音をたてて揺れる森は何処までも暗い。四方八方何処からでも見られているような気がして、まるで心臓をギュッと捕まれているようである。スクアーロは素早く剣を手に取った。


「援護が来るとしても…三十分はかかるな。まあ゙、奴を含めても余裕だろぉ」
「奴って?」
「!」


すぐ後ろで声がした。心臓が一際大きく脈を打つ。それなのに、スクアーロはとても楽しそうだ。素早く振り返って、相手との距離を取る。不思議そうな振りをしている辺り、まだ本人にはバレていないのだろう。


「テメェのことだぁ」
(え、ちょ)
(フェアな状態で殺ってみてぇんだぁ)
「なんで俺が?」
「惚けんじゃねぇ!二人を殺ったのはテメェだろぉが」


男もそう馬鹿ではないらしい。演じることが無意味だとわかると、今までとは全く違う笑みを浮かべた。


「へぇ…流石期待の星ってとこか。何故わかった?」
「わからねぇ奴の方が馬鹿だ」


男はスクアーロの言葉が勘に触ったようで、ピクリと眉を寄せた。
鯱はどうしようもなくハラハラして、額に手を当てた。スクアーロは完全に楽しんでいる。挑発的な物言いは元からの部分もあるが、それを抜いたってわざと男を怒らそうとしている。ここ数ヶ月でわかったスクアーロの悪い癖だ。最近は剣士潰しにも行けていなかったから、それも確実にある。この男と戦いたいとウズウズしている。もう、何を行っても無駄だろう。まぁ、勝ってくれればそれで問題ないのだが。

(自分もひとのことは言えないしな…)


鯱は鯱で、自分の中にハラハラとは違う高揚が胸を押し上げていることは自覚している。スクアーロの剣が見たくてしょうがない。いつ見てものめり込んでしまう。戦いも死体もやはり好きではないが、スクアーロがどう戦うのかを見るのは好きだ。


「相手は火器を扱う組織。隊員の死因は刺傷。テメェの武器は短刀。」
「相手が火器以外に所有してる可能性は?」
「無くはね゙ぇ。だが敵であれば何らかの連絡、合図があるはずだ…油断ってのも情けねぇがな゙ぁ」


ふむ。と男は顎に手を当てた。その仕草は余裕そのもので、分かりやすい挑発。


「七十点てとこかな。まだまだ詰めが甘いけど、その年にしてはいい線いってる」
「んだとぉ?偉そうに言いやがって!」
「まあ、いい。君にも死んでもらうよ、援護が来る前に」
「ハッ、大口叩きやがって!テメェなんざ一瞬だぜぇ!」


ギラギラ光る相手の短刀に、鯱はきゅっと眉をひそめた。

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