楽しむといっても、スクアーロの役目は基本待機。万が一逃げ出した連中を始末することだ。なので、何処にでも駆けつけられるよう、少し離れたところに息を潜めている。いつ指示が来てもいいように、無線を着けていればいい。正直ヴァリアーともあろうものがこの程度任務でヘマをするとは思えないが、何があるかはわからない。それに情報漏れの件もある。まあ、自分は剣を振るえたらそれでいいのだが。
――ザザッ
「!」
僅かなノイズ。メンバーの誰かしらが電源を入れたようだ。
「スクアーロっ!」
「なんだぁ」
相手はスクアーロの靄の渦中にいる人物だった。切羽詰まっている声に、スクアーロと鯱にピリッとした緊張が走る。
「情報が漏れていたっ…」
「んだとぉ?」
「あぁ、後の二人はもう殺られた…いいか、俺がそっちに向かうまで絶対に動くな」
「…」
「スクアーロ?」
「…断る」
「えっ、」
「情報が漏れていたということは、この場所も把握しているってことだろぉ。待ち伏せも悪くねぇが、任務は壊滅だぁ」
「だが君一人では、」
ぶつり。
相手の返事を待つ前に、スクアーロは無線機の電源を切ってしまった。
(大丈夫なのか?)
(いよいよ怪しくなってきた。情報把握のためにも、他の隊員のところにいく)
(あの人に聞いた方がよかったんじゃ…)
(他人はあんま信用しねぇ方がいい。特にあいつはなぁ゙)
(…ふうん)
何か考えがあるのだろう。雲行きが怪しくなってきたことは鯱もわかった。一抹の不安を持ち余したまま、鯱はスクアーロに任せることにした。
「これかぁ…」
殺された隊員二人の距離は然程離れていなかった。武器は既に敵に回収されており、血は地面を広く汚していた。
(うっ…酷いな…出血多量か)
(わかるのか)
(まぁ…少しはな。しかし、早いな…)
(…何が)
(死ぬのがだ。腹部からっぽいし、血の状態を見ても…よほど広い傷だったんだろう…)
(…)
スクアーロは鯱の言葉に引っ掛かるところがあったらしい。隊員の体に足をかけると、一気に蹴って転がした。それによって露になった顔に、鯱は思わず目を背けた。決して死体が平気なわけではない。
「はぁ…なるほどな゙ぁ。鯱、目ぇ開けていいぞぉ」
(え、ああ…)
辺りをぐるりと見回して、スクアーロは舌打ちをついた。
(ややこしい…)
(とりあえず、ヴァリアーに連絡を入れないと)
(流石にな゙ぁ)
スクアーロの手には、任務用の無線機出はなく、携帯電話。ヴァリアーから至急されたものであり、ボタン一つで向こうと繋がるようになっている。
「任務番号D25。任務中に隊長を含む二人が死亡した。情報漏れだぁ…いや゙まだだ…ぁ゙あ?んなの要らねぇ。……それと」
向こうは情報漏れに同様しているようだ。ヴァリアーのセキュリティを掻い潜って来たのが信じられないのだろう。援護はスクアーロが断ったものの、送ってくるに違いない。スクアーロは電話の向こうにイライラしながらも、それを隠すような平然とした声色で言ってのけた。
「裏切りが出た」
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