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何十分もたった。自分の腰に腕を回し、腹に顔を埋めてぐずぐずと泣き続ける少年の背を、鯱はゆっくりと撫でる。その手が急に透けたのに、鯱は驚きの声をあげた。


「どうしたの?…あっ」
「夢から覚めるみたいだ…ほら、君も」
「あ、わっ…やだ!」


瞳いっぱいに涙と不安をためて、少年はこちらを見上げた。鯱はそれが可愛くて、しかしこの少年の目覚めた先の環境に胸を痛めた。

「大丈夫、また会える!」
「ぜったい?」
「絶対!約束する」


少年の安心した顔を最後に鯱の意識は溶けていった。


(んぅ…)
(お、起きたかぁ)


目を擦ろうとすると、頬が濡れているのがわかった。あれは夢だったんだろうか。夢でなければいいのだけれど。


(なんか言ったかぁ?)
(や、何も)


スクアーロは特に気に止めた様子はない。機嫌も悪くないようだった。トレーニング中なのか、設置されてから愛用しているバッティングマシーンが視界に映る。


「任務は?」
「七時からだぁ」
「あんまり詰めすぎるなよ」


わかってる、という素っ気ない返事だけで、勿論聞く気はないらしい。スクアーロの性格はわかってきたつもりなので、自分も日課の鍛練をすることにした。今はもうすっかり手に馴染んだ木刀を手に取る。それからは静かだった。


♂♀


「ここからは各自歩いて配置に着け。ヘマするなよ」


リーダーの男はスクアーロをたっぷり睨んで言い放った。肝心のスクアーロは手元の小さな地図を見ていたので、余計に腹が立っただけなのだが。そんなスクアーロに舌打ちをしたあと、リーダーの合図で全員が四方へ消えた。
今回の任務は、武器の密輸組織の壊滅。銃などの火器を扱っているとのこと。ボンゴレに許可を得ない犯罪組織だ。シマにも何件かの被害が出ている。しかし、中々謎が多いところで、本部の方の人間が行ったところ、既に情報が漏れていたらしい。全員重軽傷を負って失敗。スクアーロから言わせれば実力不足だと思うのだが、どうも不可解だということで、此方に回ってきたというわけだ。この程度の任務が底辺に回る辺り、ヴァリアーの実力が知れる。
スクアーロはもう一度地図に目を通して、それを懐にしまう。鯱はおや、と思った。何だか凄くもやもやしている。緊張しているようでもないし、とても任務前の心情ではない。


(どうした?)
(いや゙、なんか…)


歯切れの悪い言葉は珍しい。いよいよ心配になってきた。


(言ってみろ)
(アイツ…手紙の…怪しいというか、気色悪いというか)
(あの人が?)
(確証はねぇ。ただの勘だぁ)
(うーん)


確かに、あの人からの視線はしょっちゅう感じる。しかし、鯱にはそれだけであって、とても親切で物腰の柔らかい人だと思う。
しかし、スクアーロの勘も侮ること無かれ。用事に越したことはない。


(まあ、警戒はしておくべきだろう。)
(そうだな゙ぁ)
(スクアーロのこと好きだったりして)
(っゔお゙ぉい!気色悪いこと言うんじゃねぇ!)
(あははーごめん)


かちり。腕時計の長針が12を指す。任務開始だ。さあ、楽しませてもらおうじゃねぇか。

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