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あの奇妙なお使いの後、特にこれといった出来事もなく、スクアーロは日常を坦々と過ごしていた。今はあまり学校に通うこともなく、鍛練と学校のカリキュラムを遥かに進んだ座学。特に語学をみっちり。それを繰り返している。日本語は鯱のお陰もあって、英語の次に得意になった。まだ一年程度しか経っていないのに、ここ半年の飲み込のスピードが凄いと教師は驚いていたのを覚えている。当たり前だ、鯱が教えてくれたのだから。スクアーロは心のなかでひっそり自慢した。

そして今日、スクアーロのもとにお使以来の任務が言い渡された。実質初任務となるこれは、何人かのグループで行われる。単独で暴れるのが好きなスクアーロは物凄く不満気である。


(そう拗ねるなよ)
(拗ねてねぇ゙)
(あのなあ、しょうがないだろ。お前はまだ入隊したばかりなんだ)
(俺の実力なら、)
(自分を見誤るな)
(…うるせえ)


反抗期だろうか。鯱は溜め息をついた。

三日後に向けての打ち合わせがあるらしい。スクアーロはまだ拗ねているようで、仏頂面のまま、場所に向かった。実際に行くメンバーと顔を会わせるのはこれが初めてである。
一応スクアーロにも、新米だという自覚はあるので、予定じかんの30分前にそこへ向かった。しかし驚くことに、その小さな会議室には既に先客がいた。


「あ、君は」
(…誰だぁ?)
(また、忘れたのか!二度も会っただろう)
(…あ゙ぁ、手紙の)
「そっか、一緒なんだね。よろしく」


本当に暗殺者なのかと疑ってしまうほど、気の抜けた人の良い笑みだ。鯱はその笑みに好感を持てたのだが、どうもスクアーロはそうでないらしい。男の言葉を無視して、さっさと席についてしまった。


「嫌われちゃったかな?」
(スクアーロ!)
(何か、気に食わねぇ゙)
(子どもみたいなこというな!)


つんとしたスクアーロの態度に、鯱はやきもきしたが、相変わらず男性に気にしたようすはなかった。
会議で会ったリーダーの男はスクアーロのことが気に食わないらしい。何かと難癖をつけては、ねちねちと回りくどい非難をしていた。もう一人は何か言ったわけではないが、スクアーロを嫌っているのはまる分かりだった。二人ともプライドの高い人物だと思う。少年もそれを流せるほど大人ではない。鯱はなんとかスクアーロがキレるのを押さえるので精一杯だった。鯱はこの任務が全く上手く行く気がしない。

ヴァリアー内のゴタゴタや、最近剣士潰しにも行けていないスクアーロのイライラも重なって、ここ最近の鯱は気疲れが絶えない。そのぶん、精神的な回復を求めてか、必要ないはずの眠りは深かい。
その夜も鯱は変わらず深い微睡みに耽っていた。ふわふわした感覚に思考は緩みきっており、まるで初めてここに来たときのようだとぼんやり思った。
不意に暖かな風が鯱の頬を撫で、ビックリして鯱は飛び起きた。何故ならここに風が吹くはずはないからだ。溶けていた思考回路は一気に覚醒し。怖々と辺りを見回した。
おかしい。スクアーロの中は真っ黒な空間である。それなのにここは、染み一つない白さ。白しかない空間に鯱は一抹の不安を覚えた。誤魔化すようにきゅっと目を閉じる。その瞬間、聞き覚えのない声が耳に飛び込んできた。


「だれ?」

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