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一瞬固まったが、鯱はその声に聞き覚えがあった。スクアーロは無いらしく、体を警戒で満たしている。気配がわからなかったのだ。しかも背後を取られているとなれば、危険な状況であることは誰でもわかる。持っていた剣を再度握りしめ、動揺を隠すようにスクアーロは振り返った。相手が敵であるかも知れないにも関わらず、このような軽率な行動が出来たのは、相手に全くの敵意が感じれなかったから。警戒心の中にも何処かで覚えていたのかもしれない。


「なんだ、テメェか…」
「なんだとは失礼だね」
「確か…」
(名前何だったかぁ?)
(…ヴィトー)
「ヴィトー?」


正解とヴィトーは微笑んだ。落ち着いた、大人雰囲気を纏っている。しかし、シンプルな眼鏡の奥は、以前会ったときのように好戦的な色がちらついている。鯱はぞくり、と何かが背中を走るのを感じた。やはり、スクアーロは気づかない。好奇心に濡れた瞳は、確かにスクアーロに向いていると言うのに。


「これは…君がやったのか?」
「まぁなぁ゙」
「流石だね。僕のだったんだけど…助かったよ」
「お前の実力なら簡単じゃねぇのかぁ?」
「いやあ、色々とね」


その笑が誤魔化しであることは分かっていたが、別段興味もなかったので、スクアーロはそれ以上追求しようとしなかった。


「スクアーロは何を?」
「ヴァリアーの用でなぁ」
「へぇ、上手くいったか?」
「失敗する方が難しい」


ヴィトーは心底楽しそうだった。鯱はそれが気になって仕方がない。最初に会ったときの違和感は、今日また大きくなったようだ。


「そうだった。これ、ソイツらの銃だぁ」
「あ、ありがとう。後は俺がやっとくよ」


またね、そういったヴィトーの顔が、声が気になって仕方がない。背中に感じる視線も鯱には特別なもののように思えた。

それからは、何のトラブルもなくヴァリアーに変えることが出来た。その辺にいる隊員を捕まえて、タガミの居場所を聞き出す。たぶん自分の部屋だろうという。


(始めていくな)
(まぁ、幹部の部屋なんてそうそう入れねぇ)
(うん)
(こんなんなら鍛練でもしている方がよっぽどよかった)
(こら、思ってても言うな)
(口には出してねぇぞぉ)
(あ、そっか)


スクアーロと話すのは実に楽しい。そんなに年齢差を感じさせないし、何となく趣が合うというか…気のおけないという言葉がしっくりくる。
教えられた通りの場所についた。軽いノックに返ってきたのはタガミの声で、二人はほっとした。


「スクアーロ…です」
「あぁ、どうぞ」


鯱に睨まれたような気がしたので慌て敬語をつける。入って最初に目に飛び込んだのは、大量の白だった。


「すまない、書類が溜まっていてね」


誰のせいで、とは聞かない。わずか数日しかヴァリアーにいないスクアーロだが、状況はよく分かっていた。自分で肩を揉みながら席を立つタガミに、鯱はこれ以上白を加えるのは申し訳なかった。


「これ、剣帝に」
「ああ!ご苦労様。面倒なことをしてすまなかったね」
「いや゙」
「確かに預かりました。もう戻っていいよ」


こうして、スクアーロの初任務はいとも簡単に、あっさり終わった。

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