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お使いという言葉が相応しているほど、そこには緊迫した空気も、真剣な雰囲気も見当たらなかった。少しの談笑の後に、ドニは思い出したように鞄の中を探った。そうそう忘れるところだったと、真っ白な封筒を軽く手渡されたのはつい先程のことである。
今はその封筒を懐にしまい、一人帰路を歩いている。


(楽しかったな)
(まぁな)
(後はそれを田上さんに渡すだけだろう)
(あ゙ぁ)
(俺の考えは深読みだったみたいだなー)
(…)
(スクアーロ?)


返事は帰ってこない。鯱がもう一度名前を呼ぼうとすると、スクアーロはピタリと足を止めてしまった。


(…どうやら杞憂には終わらなかったみたいだな゙ぁ)
(え、)
「うお゙ぉぉぉい゙!出てきやがれぇ!」


上手くしまっておいた剣を手にスクアーロが声をあげると、黒い何かとともに、三つの気配がした。鯱の心臓がどくり、と大きく波打つ。喉に何かが詰まって声がでなかった。


(あ…)
「ヴァリアーの隊服じゃねぇな゙ぁ…フェイクか?」


スクアーロの疑問に答えるものはいない。三人が同時に拳銃を此方に向けるのがわかった。


「わざわざご苦労なこったっ」
「!」


スクアーロがぐっと構える。三人はそれに気づくも、遅すぎた。


「あ゙ぐっ」
「うあ゙ぁ」


二人、一気に切りつけた。血の臭いがに辺りを満たす。噎せかえりそうな鉄っぽい臭い。


「弱ぇ」


手首を切り落とせばすむ話だが、スクアーロは銃を持っていた手の腱を上手く切り、腹に一発入れて伸すだけだった。鯱はそんなスクアーロの意外な行動に疑問をもつどころではなかった。いきなり起こった戦闘に対する興奮と戸惑い、スクアーロの惚れ惚れする技に目を凝らすことのみに神経全てを奪われていた。
残るは一人、顔を隠すフードから恐怖が滲み出ているのがわかった。スクアーロは伸した二人の拳銃をズボンのポケットに突っ込み、ギラギラした目で笑ってみせた。

「これで試してるつもりかぁ?」
「クソッ訳のわからんことを…」

男が何やら呟いているのを、スクアーロはさも興味が無さそうに首を回した。


「何言ってんのか知らねぇが…終わりだぁ」
「なっ…ぎゃああっ」


剣に付いた血を振り取る。銃を奪って溜め息に似た息を吐いた。


(やっぱり凄いな、スクアーロは)
(…相手が弱すぎた。拍子抜けだぁ…嘗められてんのか?)
(いゃあ、まさか…刺客じゃなかったとか?)
(ま、関係ねぇがなあ。先に銃向けてきたのは向こうだぁ)
(剣構えてただろお前も)
(…それはノーカンだぁ)
(はあ?)


誤魔化すように一歩踏み出す。
しかしその次はなかった。


「やあ」


気配は一切無かった。突然背後から声。鯱もスクアーロもざわり、と肌が際立つのがわかった。

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