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上司の、それもトップの命令であれば仕方がない。あれからスクアーロはすぐに手紙を燃やした。一応、証拠を消すためだ。用心に越したことはない。しかし、スクアーロは未だ不意に落ちないようだった。
「お使い」のため、出かける用意をしながらスクアーロは内心呟いた。

(どうも気持ちわりぃ)
(まだ言ってんのか)
(会ったことない下っぱに、こんなことさせるかあ?普通)
(ううん…実力買われてる、とか?)
(確かに俺はそこいらの奴らより断然強ぇがなぁ!)
(こら、調子乗んな……実力、実力試されてたりして)
(んだとぉ?)


スクアーロの眉間に皺が寄る。
あらら、機嫌を損ねてしまったか。鯱は苦笑する。


(これはちょっとしたテストって言うのは?)
(…成る程)
(行動の慎重さとか、洞察力とか。敵と鉢会わせたら実力もだろうし、それこそ信頼できるかとかも。監視されてたり?)
(上等じゃねぇか。俺を試してんだって言うなら受けて立ってやるぜぇ!)
(いや、これあくまで憶測…はぁ)


まぁやる気になったのだからよしとしよう。鯱はそうやって無理矢理言葉を飲み込んだ。


J&Bというカフェは、地図がなくとも直ぐに見つかった。巷ではそこそこ人気のある店のようで、道行く人に尋ねれば、一発で場所がわかった。然程大きくはないが、落ち着いた雰囲気と深みのある珈琲の香りには好感を持てる。一体どんな人物が待っているのか。顔見知りという単語に特定の心当たりはない。スクアーロは少しの警戒心と一緒にドアを開けた。
カラン、と木の打つ軽い音がスクアーロの存在を知らせる。その後直ぐに、スクアーロが見渡す必要もなく、相手は見つかった。


「スクアーロ!」


鯱はおや、と思った。成る程この人ならば顔見知りである。その声にも笑顔にも、二人はしっかり覚えがある。スクアーロも驚いた様子で手を降る男の名を呼んだ。


「ドニじゃねえか」


人の良さそうな爽やかな笑みを一層深くして、ドニは手招きした。スクアーロは少しほっとして、それでもまだ残る疑問に押されて、足早に席へ向かった。


「まあ、座れって。ちょっと振りだな」
「あ゙ぁ。んなことより、何でドニが」
「ああ、テュールがな。お前と顔見知りだからだと。こっちも暇じゃねぇってんのに全く…」
「ちょ、ちょっと待てぇ!」
「ん?」
「ドニ、お前…剣帝と交流あんのか?」


あまりに親しそうに、しかもさも当たり前のように言うドニに、スクアーロは慌てて声をかけた。鯱も状況に着いていけない。スクアーロとドニに情報のズレがあることだけはわかった。
ドニは驚いた顔をして、それから呆れたような少し苦い表情を見せた。


「まさか…スクアーロ、アイツから何も聞いていない…?」
「アイツが剣帝を指すなら」
「やっぱり…ああ、うん、アイツめ」


少し唸ったあと、ドニは何でもないように笑った。鯱は何か隠しているように見えて仕方がなかった。しかし、大したことでも無さそうなので本人たちに任せるのがいいだろう。


「いや、悪かったな。そう言えばヴァリアーに入隊したんだって?流石だな」
「ったりめぇだぁ!」
(…)


スクアーロって誉め言葉に弱いんだろうか。鯱はスクアーロが単純なのかそうではないのかわからなくなって、大きく息を吐いた。


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