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スクアーロが鍛練場にくると、辺りは一気に騒がしくなった。そのなかには嫌悪も混ざっていて、鯱は何だか居たたまれない、しかし腹立たしい気持ちになった。スクアーロは勿論気にすることなく、寧ろその悪意に満ちた視線を楽しんでいるようでさえある。つかつかと足を進める先はタガミが言っていた新しいマシンのところだ。
既に空いているマシンはなく、皆悪戦苦闘しているようだ。温度を感知するだけあって、確実に人を狙ってくる。六つの穴から絶え間なくランダムにに放たれるのは野球ボールサイズの柔らかい玉だが、スピードは中々のもの。それでもスクアーロは遅いと思った。チラリとみると、どうやら初級らしい。
すると一人が使い終わったようだ。まだ若い、それでも自分よりは年上の男。こちらに気がつくと、曖昧にはにかんできた。


「あはは、恥ずかしいな。思ったより難しくてね。」
「さっさとどけぇ」
「おっと」
(あ、こら!)
「あはは、元気だねぇ」


スクアーロは鯱を無視して機械をセットし始めた。相手は特に気にした様子はない。むしろ初級からがいいよだとか、色々と親切に教えてくれてる。それでもなお、スクアーロは無視を決め込んだ。鯱は叱ってやりたい気持ちでいっぱいだったが、スクアーロの性格を思い出して口をつぐんだ。
男性の親切をバッサリ切って、スクアーロが押したボタンは上級だ。後ろで複数の驚きと笑いが漏れる。俺達が出来なかったんだ。アイツにできるはずない。そんな言葉が耳に届くのと、スクアーロが備え付けのバットを手に取るのは同時だった。

上級、開始します。3、2―

鯱は息を飲んだ。無機質な女性のアナウンスが終わると同時にバシュ、と空気の音がした。と、同時にスクアーロが球を打つ感覚も。空気の音は止まない。絶え間無く出てくるどころか、一度に2、3個出てきているようだ。スクアーロはその度にバットの角度や向きをずらし、まるで子供の遊びに付き合っているように難なく打っていた。


(っ凄い、スクアーロ!さすが!)
(ハッ、こんぐらい出来て当然だぁ)
(嫌味か!当然なわけないだろ、こんな速い球…)
(見えねぇのかぁ?)
(ああ…ん?…いや、見える。目がなれてきた)
(ならお前も凄ぇんだろ。他のやつらは、満足に目で追うことも出来ねぇみたいだからな゙ぁ)


スクアーロの言葉に耳を澄ませてみると、なるほど、その様だった。なんだアイツ、有り得ねぇ!おい、見えるか?いや、残像程度しか。アイツの動きはてんでゆっくりだ。そんな…俺達はヴァリアーだぜ!?
ヴァリアークオリティというものを疑う物言いだ。スクアーロは無駄ない最低限の動きを途切れることなく続けている。なので、大して動いていないように見える、それだけだ。大きすぎる動きはよくない。無駄が多ければ多いほど、隙も死角も大きくなることを鯱は知っていた。体が興奮に震えるほど、スクアーロの動きは自然で無駄がなく、美しかった。
最後の球をスクアーロが打ち終えると鯱は思わず拍手した。辺りは真っ白になっていた。


(明日も学校だろ、程々にしときな)
(あ゙ぁ、でも体が鈍っちまう)
(とりあえず、出なきゃな。新しいから他にも使いたい人がいるだろう。それから、たまには休むことも必要だと思うが)


ガタッ。バットを指定の場所に戻して、スクアーロは金網の戸を開けた。鯱の言うことに納得がいかないのか、靄のような感覚がする。


(学校で休んでる)
(あ、お前なぁ!学校は寝るところじゃないんだぞ)
(あ゙ー!わかった、わかった)

少し顔をひきつらせたまま速足で歩いていくスクアーロを、男はじっと見つめていた。


「スペルビ=スクアーロ、かあ…」

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