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勝負は、スクアーロが切っ先をタガミの喉元に突きつけることで終わりを迎えた。お互いに少々息が乱れており、タガミはは驚きと喜びが要り混ざった顔をしている。スクアーロも、ここ最近感じることのなかった満足感が体にじんわりと染み渡るのを感じた。嗚呼、楽しい。心からそう思えた。
周りには驚愕の色をしたざわめきが止まない。まさか、嘘だろ、あのガキは何者なんだ。そんな言葉が飛び交うのをスクアーロは煩わしそうにしている。鯱は自分が誉められたような、否、それ以上に誇らしくなった。


「やはり凄いな、君は。ボスが目をつけただけある」
「当たり前だぁ」
「皆、この子はスペルビスクアーロだ」


ざわり。喧騒はよりいっそう大きくなった。


「さあさあ、もう夕飯の時間だ!皆もそろそろ移動するように」



食堂では、それは多くのひとに話しかけられた。最初の方はスクアーロも相槌を返していたが、絶え間なく来る同じ様な質問と好奇と嫉妬、見下すような視線に、鯱も何も言えないほどイライラしていた。スクアーロは遂に粗雑な態度を取り、大半の隊員の印象は良くない。しかし、スクアーロはなれたもので、塵も気にせず毅然としていた。それが一層エリートの琴線に触ったのだろうが、知ったことではない。食事を済ませると、さっさと自室に向かった。


(よかったのか…?)
(何が)
(や、だって…)
(馴れ合いに来てる訳じゃねぇんだぁ、鬱陶しい)
(限度があるだろう)
(知るか)
(…はぁ)


明日は学校なので、用意を済ませ、早く休むことにした。と言うよりも、イライラのせいで何もする気が起きない。鯱と大した言葉を交わすことなく、スクアーロはベッドに潜り込んだ。


♂♀


鯱が目を覚ましたときには、既に学校の中だった。それまでどうやって来たのかもわからないし、何があったのかも知らない。しかし、スクアーロの機嫌が元に戻っていることにほっとした。

クラスでと紹介を終え、授業までの空いた時間。スクアーロは机に突っ伏し、目を瞑って微睡みに体を預けていた。スクアーロから隠しもせず放たれる近寄りがたい空気に、誰一人話しかけようとはしない。名前のせいもあるだろう。まだまだ残暑はあるものの、イタリアはそれほど厳しくない。いつか行ったアジアの夏の方が酷かった。

―――ガタァン!


「うわあっ」
「何やってんだテメェ!」
「ひいっ!ご、ごめん」


…五月蝿くて眠れない。授業も始まる直前なので、仕方なく顔を上げる。明るくなった視界に入ってきたのは、癖のある金髪が椅子と一緒に床にへたりこんでいるところだった。あ゙ー、これは面倒くせぇぞ。スクアーロは寝ぼけ眼をグッと閉じてそう思った。
一方の鯱は鼓動が大きく波打つのを押さえられなかった。仕方がないと思う。スクアーロ以外で初めて、“登場人物”に出会ったのだから。読んでいたよりずっと幼いが、間違いない。キラキラ光る金色の癖っ毛も、きゅっと下がったタレ目も、忙しなくやらかすところも、全て見た通り。彼はまさしくディーノである。


(うわあああすごい!どうしよう!)
(な、何がだぁ)
(あ…何でもないよ、うん)
(?)
(あはははは)


授業中、スクアーロは怠そうに前を向いているだけだった。日本とイタリアの教育方が違うからといって、ましてやそういう学校だからといってその態度はどうかと思う。鯱は二、三度注意したが、全く聞く耳を持たないので諦めることにした。




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