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あれから小一時間ほどして、またタガミはスクアーロの部屋に戻ってきた。
何枚かの書類と共に今後のカリキュラムとやらを実に分かりやすく教えてくれた。自分はヴァリアー中心に行動するらしく、最初の一週間以外、学校へはたまに通う程度になるらしい。正直なぜ学校に通うのかわからないが、剣帝の意向だとしか教えてはもらえなかった。聞く限り、ヴァリアーでの訓練もそこまで凄そうには思えない。それほど訓練付けになるわけでもなさそうで、座学をいれても時間に余裕はありそうだ。これならまた剣士潰しにも行ける。
タガミは説明を終えるとさっと立ち上がり相変わらず眉間にシワを寄せてこう言った。


「ボスを知らないか」


スクアーロはしばらく質問の意味がわからなかった。ボスはこの場合、ヴァリアーのボスをさすのだろう。補佐が把握していない…?タガミは見たところ、仕事にルーズそうには塵も見えない。スクアーロは首をかしげた。


「……いや」
「そうか、悪かったね。……全くあの人は、すぐにフラフラして…」


こんな具合にタガミは暫くの間ブツブツと愚痴を言った後、ここがスクアーロの部屋だと気づいたのか、苦笑とお礼を残して足早に出ていってしまった。恐らくボスの捜索をするのだろう。今日初めてあった人物に、スクアーロは珍しく少し同情した。
書類にはヴァリアーの屋敷の地図もあった。これから散策がてら、大体の部屋の位置や間取りを把握しておけとのことだ。案内してやれなくてすまないと、本当に申し訳なさそうにしていたタガミを思い出した。


(行くかぁ…)
(一発で覚えられるのか?)
(大体ならなぁ゙)


地図を片手に、スクアーロはドアノブを握った。

時間だけはたっぷりあるので、特に焦ることもなく歩きながら巡回していく。入り続ける日の光が廊下を少し暑くして、たまに空いている窓から入る風が心地よい。時折地図に視線を落としながら、左右を確認しつつ進んでいく。
依然として廊下は静かであった。別のフロアか、はたまた外にいるのか、声さえも聞こえない。


(誰もいないな)
(あ゙あ…)
(敵襲の心配はないのだろうか)
(ヴァリアーだからなぁ゙…)


心なしかまったりとした穏やかな空気に身を包むのは、スクアーロの一人格となってからは初めてかもしれない。鯱はぼんやりとそう考えながら、目の前に写る階段をただ眺めていた。


スクアーロの中から屋敷を一通り見てみて鯱が思ったのは。簡素で無駄がないということであった。たぶんスクアーロも同じようなことを思っているだろう。生活感が感じられないとは言わないまでも、違和感を覚えずにはいられないほどであった。幹部のフロアには行かなかったが、そこも同じような感じなのだろうか。部屋に帰ると明日通う学校の詳しい書類や必要なものと、メモが置いてあった。綺麗な字で書いてあったのは、夕食は大食間で取ればいいということであった。時間を見ればまだ時間はあるし、まだ腹も減っていない。スクアーロはベッドに腰をついた。


(なんか…)
(あっと言う間に日が過ぎてしまったな)
(ああ゙)
(学校は楽しみか?)
(いや全然)
(…)
(時間が勿体ねぇな)
(鍛練にでも行けばいいんじゃないか?別の建物にトレーニングルームがあっただろう)
(そうすっかぁ…よし、)


心なしかスクアーロの雰囲気が軽くなったような気がする。緩んでいたものが、きゅっと引き締められた、そんな感じだ。やはり剣のことが何よりも大切なんだと、鯱は改めて思った。


♂♀


先程は入り口しか見なかったトレーニングルームだが、どうやら防音加工を施してあるらしい。重量のある扉を押すと中には何人かのヴァリアー隊員がいた。といっても両手で足りるほどしかおらず、だだっ広いこの部屋では余計に少なく思えた。
皆黙々と鍛練に励んでいたが、一人がスクアーロに気付いたようで此方に歩み寄ってくる。タガミだった。


「やあ、丁度私も少し時間が空いてね」
「…」
(返事)
「…そう、ですか」
「ふむ、やはい剣か。良ければ私と組まないか?あまり得意じゃないが、一人よりはいいだろう」


誘いを断る理由もなかったし、何より鯱が怖い。スクアーロは迷いなく申し出を受けた。タガミは笑みをこぼして中央の方に向かった。やはりボスの補佐ということもあるのだろう、周りの隊員も畏まった態度だった。


「ここだ。一本勝負でいいか?」
「…退屈させんなよぉ゙」
「ははっ、威勢がいいな!嫌いじゃないよ」


いつの間にか、各々トレーニングをしていた隊員たちは、全員が二人の周りで目を好奇に輝かせていた。
スクアーロが剣を構え、軽く持ち直す。ひしひしと伝わる高揚感に、鯱も息を飲んだ。やはり、剣を交えるのは素晴らしい。スクアーロの先程までのモチベーションの差を見ても明らかだ。自分の鯱は口角が上がるのを気づかなかった。

目を合わせる。それだけで次には両者が消えていた。

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