17



散々騒いだ次の日は早かった。いそいそと準備をするスクアーロは遠足前の子どものようだったし、今も妙にそわそわしていたり、時計を気にしているのは見ていて実に微笑ましい。無論私もスクアーロと同じ気持ちである。楽しみで仕方がない。しかし本人でないぶん少し冷静な、傍観したところがある。よって、勢いで早朝に叩き起こされた私は少しテンションが低いわけで。
眠くもないのに出た欠伸とドアのノックは同時だった。


「スベルピ・スクアーロ、正面玄関前に車が止めてある。それに乗るように」
「荷物は」
「一緒に持っていきなさい」


スクアーロはまとめた荷物を抱えた。抱えるといっても片手一つずつで十分だった。何時もより早いスピードで歩く。時々すれ違った人々には何か囁き合われたり、指を指されたりした。噂が広まるのは本当に速いものだ。


「それで全部か?」
「あ゙ぁ」
「こっちに詰めてくれ」


言われた通り荷物を積めると、助手席に乗り込んだ。黒塗りの小さな車はすぐに出発した。
その小さくなっていくのを眺めている影があった。


「いやあ、本当にありがとうございます、九代目!」
「構わないよ。私も丁度そうしようと思っていたんだ。彼は原石だからね」
「私も、始めてみたときビビッときちゃいまして」
「ははは、いやしかし、珍しいこともあるものだね」
「まぁ、あまりこういうことはしませんからね」
「君があの子を欲しいと言ってきたのには驚いたよ。…まさか剣帝のお眼鏡にかかるとは」
「あはは、大袈裟ですよ!私はアイツの目が気に入ったんです。もっと強くなったら手合わせしてみたい」
「ほう…それは楽しみだ」


♂♀


(………でっか…)
30分は乗っただろうか、ヴァリアーの屋敷も、ボンゴレ本部に負けず劣らずの荘厳さだ。クスアーロも少し緊張しているのがよく伝わった。ゆっくりと感動に浸っていたかったが、そうもいかず、ここまで送ってくれた人は門まで行けばわかるという言葉を残してさっさと帰ってしまった。初日に人を待たせるのはさすがにマズイ。鯱に急かされることもなく、クスアーロは足を進めた。
待っていたのは一人の男性だった。パッと見ただけでわかる眉間の皺は、機嫌が悪そうという印象よりも、大変そうだとか苦労してそうという方が強かった。無駄のない、スマートな雰囲気の人だと鯱は思った。


「…君がスクアーロかな?」
「ああ゙」
「部屋に案内しよう。」


さっときびすを返し、歩いていく男性を慌てて追う。急いでいるのか歩調は些か早い。
二人ぶんの足音が響くだけで。辺りは妙に静かだった。お互いが話さないからかと思ったが、それでも静かすぎる。前の男が一枚の扉の前で足を止めたとき、スクアーロは気付いた。ヴァリアー隊員どころか、人ひとり見当たらない。窓から差す昼間の光が丁度二人の間に割り込んで、目の前の男がよく見えない。


「ここが君の部屋だ。有り余っていてね、ひとり部屋だよ」


男はスクアーロの方を向かない。


「とりあえず、君には明日から学校に通ってもらう。尚且ヴァリアーとしての訓練もあるから、今までほど自由はない。カリキュラムは予めこちらで組ませてもらっている。まあ…」


男はやっとスクアーロの方を見た。


「君はある程度のレベルがあるから、そんなに肩に力を入れる必要はない」


ぽん、と軽い音と共にスクアーロの肩に男の手が乗った。


「申し遅れた。私はシュウヤ・タガミ」
「日本人か?」
「ああ、ヴァリアーボスの補佐をしている。よろしく」


なんとなく、自分の中にいるアイツに似ていると思った。


- 18 -


[*前] | [次#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -