16



目が覚めると、森でした……なんて、ね。

スクリーンには木々しかなかった。周りはもう薄暗く、不気味な空気が漂っている。それだけで自分が随分長い間眠っていたことがわかった。どうやら、音からしてスクアーロは歩いているらしい。石で出来たお洒落な道路以外は木、木、木。森という言葉が一番妥当だと思った。


(スク、)
(…起きたかぁ。随分寝てたじゃねえか)
(…ごめん?)
(何で疑問形なんだぁ…それに謝らなくていい)
(はは、今どこ?)
(ボンゴレ本部の敷地内)
(えっ)


もうそんなところまで来ていたのか。それにしても全然そうは見えない。建物らしきものは何一つ見当たらないし、音だって歩く靴のもの以外は木の揺れ会うざわめきばかりだ。


(広いんだな…)
(まあ、ボンゴレだからな゙ぁ…無駄すぎるとも思うが)


そろそろ着くぞとスクアーロが言った途端、目の前に石やら煉瓦やらの塊が見えてきた。それが広がって、ついには視界に入りきらないくらいの城になった。映画のセットでもなかなか見られない。例えるなら…某魔法学校が一番近いだろうか。何にせよ、言葉が見つからない。でかい。
スクアーロは慣れたように扉にずんずん向かっていった。これまた風格溢れる扉だ。側には門番まで何人かついている。
門番はスクアーロに特に驚きもせず、一人がボードに挟んだ紙に目を移した。


「スペルビ・スクアーロだな」
「あ゙ぁ」
「外出許可書とカードを見せてもらう」
「ほら」
「……確かに。…ああ、あとお前に伝言が来てるぞ」
「伝言?」



ぺらりと紙を1枚捲り、門番は抑揚のない声で言った。


「人事課からだな…とりあえず、着き次第向かえとのことだ。」


門番はそれっきり顔を向けることもなく、元の立ち位置に戻ってしまった。それをまた気にすることもなくスクアーロは開けられた扉をくぐった。
中はひたすら廊下だった。少し進んでいくと、いくつにも枝分かれしていく全ての先にに扉がある。思ったより随分と少ないのはここが一階だからだろう。上へ行けばもっとあるに違いない。


(何々課があるなんて、企業みたいだな)
(あながち間違っちゃいねぇな。ボンゴレまでくると一種のコミュニティーだ)
(へぇ…で、今からいくのか)
(呼ばれたからなぁ゙)
(ぺーぺーだもんな)
(うるせぇ)
(お叱りでも受けるのか?)
(いや、人事課だからなぁ゙…)

疑問を口にしたが、スクアーロは検討もつかないらしい。人事課に行くことすら初めてとのこと。人事課と言うのだから、どこかに移動するのだろうか。


(考えられんのはそれくらいだが、オレはまだ何処にも所属してねぇ…)
(じゃあ、配属?)
(かもなぁ…)


スクアーロの声には、これでもかというほどめんどくささが含まれていた。
無理もないと思う。何処であろうと一度配属されてしまえば今までのように剣術の向上に夢中になったり、剣士を狩りに行けることも格段に減るのはわかりきっている。下手をすれば、剣にすら触れる機会が格段に減るかも知れないのだ。
鯱は内心を渦巻くスクアーロの感情に、自分まで気が落ちてしまった。

人事課のあるフロアまで来た。なるほど、先程よりも扉は幾分多い。それでも扉間の間隔は違和感を感じるほど広かった。


(ここは殆どの課が揃ってるからなぁ゙)
(え、声に出てたか?)
(い゙や、なんとなくわかった)

スクアーロの体に馴染んできたということだろうか。馴染むというのもなんだかおかしな話だ。自分はいよいよ人間ではないらしい。少し嘲笑が漏れた。


(ここだなぁ)


スクアーロの一言で思考は呆気なく中断された。パッと視線を戻すと、もう扉は開けられていて、中からたくさんの目が此方を向いていた。


「スペルビ・スクアーロだが」
(敬語)
「……ですが」
「ああ、帰ってきたのか。此方へ」


反応したのは銀縁の眼鏡をかけた男性だった。広い室内をずんずん進み、スクアーロを奥のソファーに座らせると、三枚の書類とペンを机に乗せた。


「突然だが、君に配属先が決まった。今までは最低限の学習指導以外は自由だったが、そろそろ君をボンゴレね人間にした方がいいという上のご判断でね」
「それはどこだ……ですか」
(よし)


男はブリッジを指で押し上げると、少し眉を潜めた。


「光栄に思いなさい……ヴァリアーだ」
「………はぁ゙?」
(出世?)
「私も君と同じ心境だが、決まったものは変えられない。まぁ、あそこにはテュールさんがいらっしゃるからだと思うが…」


男は解せぬという感情を顔にこれでもかというほど塗りたくって、何かゴニョゴニョと呟いていたが、気を取り直して先程の書類をスクアーロの前に押し出した。


「これはヴァリアー入隊の手続きと、」
「はぁ゙…」
「学校の編入届だ」
「学校!?」


男はスクアーロの反応にまた眉を寄せた。声が煩いんですよね、申し訳ないです。


「ヴァリアーのボスの命令でな。そういう学校だ。」
(あー…)
「書けたら部屋に戻って荷造りをしておくように。出発は明日の10時だ」
「わかっ…りました」


スクアーロが書き終わると、男は半ば引ったくるように書類を取り、さっさと消えてしまった。
スクアーロもサッと立ち上がり、足早に出口へ向かう。名前を呼んでみても反応はなくて、思わず笑ってしまった。スクアーロは自室(ルームシェアのようだが)に着いて久し振りに声を出した。


「っしゃああ゙ぁ゙ぁ!!」
(よかったな)
「よかったなんてもんじゃねえ!配属は腹立つがヴァリアーに入ったのは幸運だった!」
(ヴァリアーって?)
「ボンゴレ知っててヴァリアー知らねぇのか?ボンゴレの暗殺組織だ。最強といってもいい!んなことより、」
(より?)
「あそこには剣帝ががいる!」
(おお!)
「今まで捜してきた奴がいるんだ、嬉しくねぇわけがねぇ!」
(うんうん、それは素晴らしいな。ところで、スクアーロ)
「ん゙?」
(声出てる)
「!…」
(さ、い初に言いやがれぇ!)
(いやあ、ごめん。あはははは!)





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