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To be continued?



これでおしまいだ。物語はハッピーエンドで幕を閉じる。それにほっとして、良い雰囲気で見つめ合ってる二人をそっとしておいてやるべく俺はそっと踵を返した。

平凡な高校生だった俺がなんでこうやってRPGみたいに武装してこんなヨーロッパの城みたいなところにいるのかっていったら、そこで滅茶苦茶美形の金髪イケメン(ステータス:王子)と見つめ合ってるやつのせい、ってわけなんだけど、俺はそんなのもどうでもいいくらいこのしあわせなエンドロールに安心をしていた。いきなり異世界に召喚されたあいつに巻き込まれてこの世界にやってきて早半年。俺みたいなポジションはラスボス前に主人公を庇って死んだりするのでびくびくしてた。そんなことはなかった。

あいつ、高校でたまたま寮が同室になったやつなんだけど、は何だかよくわかんないけど選ばれた神子みたいな存在だったらしい。らしい、ってのも、こっちの世界に飛んできてからあのイケメンの金髪とか、ほかにもこの世界の住人(大抵イケメン)が口ぐちにいってただけで、俺も、あいつも、その証拠とかってものはぜんぜん知らないわけなので。ただあいつは手のひらから光みたいなものを自在に出せたりする。それが神子の証なんだっていう。勇者補正だ。もともとめちゃくちゃ良い奴だったから、勇者の素質は十分にあったのかもな。勇者じゃなくて神子だ、と何回もこの世界のやつらには訂正されたけど、俺にとってやっぱり主人公は勇者なわけだよ。雷撃のじゅもんとか唱えれなきゃいけないんだよ。
そいつに巻き込まれて(いっしょに穴に落ちた)こっちに来た俺は、以来、あいつの善き友人兼魔王討伐パーティの一員として頑張ってきたわけである。まあ補欠みたいな感じだったけど。イケメンどもみたいに魔法とか使えるわけじゃないし、あいつみたいに神子パワーも持ってないし。

でもまあなんとか弓道部っていうスキルを生かして、このむちゃくちゃ飛距離と精度のいい弓を与えられた俺もそれなりに頑張ったと思う。ここしばらくめちゃくちゃ日蔭者だったけど。あれあいつ何で居んの?みたいな扱いだったけど。俺はうまれつきかなり空気が読めない。何度良い雰囲気をぶちこわして白い目で見られたことか…でもって今も、他の仲間みたいにうまい具合に姿を消すタイミングをうしなって、二人の邪魔者みたいになってるわけだ。

「…こっち」

でもドアあけたら音鳴っちゃうよな、どうしよう、とこの無駄にひろい大聖堂の隅で仏像のふりをしながら考えていた俺に(そういやこの世界に仏像はない)、横から声がかけられた。その声にハッとしてそっちを向けば、さっきうまい具合にこの状況から脱出した仲間のひとりが立っている。俺がまた要領わるく手間取ってることを見越して戻ってきてくれたんだろうか。ありがたい。こいつはいつも俺の尻拭いをしてくれる良い奴である。

小走りにそっちに寄っていくと、ちょうど銅像の影になっているところにもうひとつ扉があることがわかった。勝手口のような扉らしい。音を立てないように細心の注意を払ってそこを出ると、ここ数カ月ですっかり見慣れてしまった城の中庭の風景が目に飛び込んできた。脱出成功。ゲームでいうならエンドロールのとちゅうってところだ。仲間たちのその後の様子がほほえましい感じに流れているところ。

…ていうかさっき小耳に挟んだんだけど、あいつ、これからもずっとこの世界で暮らす気らしいな。もう離さない!じゃねえよ。ずっとあのイケメンの王子があいつのこと狙ってたのかと思ってたけど逆だったのかよ。二重の意味でびっくりだよ。王子も頬そめるなよ。うれしい…。じゃねえよ。

「…なんだよ、その浮かない顔は」
「いや、あいつはいいじゃん。永久就職決定じゃん。俺どうすんだよ」
「……神子はここに残るのか?」
「ちゃっかりあいつ王子落としてやがった…。逆玉だぜ逆玉!うらやましい!」
「………おまえは?」
「そろそろ卵かけご飯とお味噌汁が食べたいです!俺死んじゃう!」
「…………そのわりに元気そうだな」

帰りたい!と地団太を踏んで駄々をこねる俺を、かれはすごく生ぬるい目で見ていた。俺は基本的に空気が読めない。たとえこの世界が平和でしあわせなエンドロールを迎えても、俺のことを一応はこの城が受け入れてくれても、やっぱりちょっと肩身はせまい。ふざけるのはここらへんにしておいて(俺の冗談は分かりづらいと定評がある)、俺はとっておきの秘密を打ち明けた。

「実はさ、俺、元の世界に戻れる方法知ってるんだよ」
「はあ!?」

あいつが虎視眈眈と玉の輿ルートのフラグをたてている間に、俺はこの城の書庫の管理人であるハーフエルフのおんなのこと仲良くなって、古文書をいっしょに探してもらったりしてたわけだ。あいつはきっと帰らないだろうなって思ってたから、俺だけの秘密。頭のなかに組むべき魔法陣の形はしっかり入ってる。

「だからこの祝賀ムードのなかでこっそり旅立とうと思っていてだな」
「…」
「お前には世話になったな!あいつをよろしく頼むよ」

いい奴なんだ。嫉妬する気も起きないくらいにさ。ばしんばしんと肩を叩いてやると、目に見えてその表情が翳った。イケメンが台無しである。この城の駆け出し騎士だというこいつは最初に近所の森に墜落した俺たちを発見して助けてくれた縁で、いまじゃ出世街道まっしぐらなわけだ。ほかにもあいつに関わったものにはみんないい効果が出てる。そのほかにも行く先々で神子饅頭とか神子クッキーとか売ってたし、あいつの経済波及効果はんぱない。やっぱりあいつはこの地に残って正解だろう。

「それじゃ。元気でやれよ!」
「…おい!」

もう俺はこの半年間卵かけご飯が食べたくて食べたくてしょうがなかったので、世界を救ったら一刻でも早く元の世界に帰りたかった。だから別れの挨拶もそこそこに、またあいつか、どっかで道草食ってるんだろ、って思われるように、さっさと帰りたかったんだけど。

ぐっと力一杯腕を掴まれる。痛い、という非難を込めて顔を上げれば、イケメンな顔をぐしゃぐしゃに歪めたかれが、じっと俺を見下ろしていた。どうしたんだろう、なにか不都合なことでもあるのかな、と思ったけど、やっぱり俺は空気が読めないので、ストレートに聞くことしかできない。

「下痢?」
「ちがう!」
「便秘か?」
「ちょっとだまれ!」

この世界の食事が合わなくて、最初の数カ月は下痢と便秘を繰り返した俺にとって、かなり最上級の心配だったんだけど。やっぱり違ったらしい。かれは両手のひらでぐっと俺のほっぺを押し潰すと、その眉毛をぎゅうと寄せて俺を見下ろした。何度も思ったことだけど実家で飼ってる犬に似てる。ういろう(柴犬・♂六才)元気かな…。

「好きだ」

えっ今なんて?って聞き返す暇もなく顔に影が降って、唇に何かが押しつけられて、さすがに俺でもあっチューされた、ってことはわかった。ずっと思ってたけどこの世界男同士に抵抗なさすぎだろ。とあいつが尻を追いかけ回されてたときに俺は思っていたわけだがまさかまさかそれが自分の身に降りかかるなんて思っていませんでした、まる。

「…俺も、連れていってくれ。どんなこともする。お前の邪魔にはならない」
「……」
「……言ってる意味がわかるか?これは愛の告白だぞ。わかるな?」
「………おまえさあ、卵かけご飯と味噌汁つくれる?」

子供に説くみたいにひっしに説明してくれたのはまあおいといて、とりあえず俺の最重要確認事項はそれだった。ご飯を炊けるのか。味噌汁を作れるのか。あ、あと、焼き魚の骨を取ってくれるかどうか。(俺がやると、身が残らない)

「…出来る。なんだってやってやる」
「よっしゃ!合格!」

非の打ちどころがない! と俺は小躍りしそうになるくらい喜んで、かれに飛びついて飛び跳ねてしまった。困った顔をしてでも付き合ってくれるあたり、いい奴である。

「待ってろ俺の卵かけご飯!」

これ以上ないハッピーエンド。魔法陣を中庭いっぱいに書きながら、俺はエンドの文字がここで打たれると、そう思って疑わなかった。

―――戻った世界には倒したはずの魔王がいて、とか、そういうことはまあ、かれの作ってくれた卵かけご飯が美味しかったことだし、ひとまず置いておくことにしよう。









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