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blindfold your eyes!
うそだったんですつづき



夜十一時のレンタルDVDショップ。週末ということもあってなかなかににぎわっているそこに、俺たちはいる。この場にいるほとんどの人間と目的は変わらないだろう。天気予報が一律雨マークに塗りつぶされたこの週末を、部屋で映画でも見ながらだらだらつぶそうと思ってるわけだった。

「んー…ホラーもいいけどな」

堀内のやつ、ホラーとか苦手そうだよなあ。まえ、気になってたパニック映画見に行くのに付き合わせたら半泣きになってたし。そうするとやっぱり妥当なのはコメディとか?新作の棚の前をうろうろしながら、俺は思案に暮れる。俺だってホラー得意ってわけじゃないけどさ、やっぱりあれだ、怖いもの見たさってやつ。ぎゃあぎゃあ騒ぐのは、けっこうすきだ。

「先輩」

すると、うしろからいきなり至近距離で声をかけられた。びっくりして振り向けば、堀内がにこにこ笑って立っている。見ていたDVDの内容も相まって、かなりびっくりしたぞ。

「お、おどかすなよ!」
「なに見てたんですか?」

なんていいながら堀内が俺の手元をのぞき込んだ。手にしていたのはさっきから気になっていたえげつないホラー映画だったので、その顔がひきつるのがわかる。ちょっと笑ってしまった。

「…別に見てただけだし。そんな怖がるなよ」
「……怖がってません」

…なら今の間はなんだと全力で問いたい。
せっかくの連休なのに雨か、ってちょっと残念に思いながら堀内とぐだぐだ話していて、じゃあ週末うちに遊びに来ませんか、といわれたのは三日前くらいのこと。そういや堀内のうちに泊まったことなかったなって思って二つ返事で頷いて、ついでに堀内んちのちかくにあるこのレンタル屋につれてきてもらうのを楽しみにしていたわけである。うちの近所のところよりもずいぶん品ぞろえがいい。

「…じゃあ借りてもいい?」
「……先輩がみたいなら、どうぞ」

ほんのすこし言い淀んでから、堀内はそう頷いた。見たかったんだって気持ちとそれからこれ一人じゃ見るのいやだよなって思いにまけて俺は気になったホラーを何本かかごに突っ込んだわけだが、いま、かなり後悔してる。


「…あの、ほりうち、くるしい」

堀内宅、深夜二時半。
クッションをかかえて、酒とつまみをぞんぶんに飲み食いして散らかしている俺は、何度めになるかわからない苦言と共に堀内の足を叩いた。
なんかよくわからないくぐもった声が耳元で聞こえるけど、内容までは聞き取れない。怨霊にとりつかれた女の子の悲鳴が上がると同時に骨がきしんだ。

「…止める?」
「…だいじょうぶです」

俺の肩に額をこすりつけ、さっきから堀内はそれしかいわない。だいじょうぶに見えないけど、予想通りこの映画は面白かったので、見るのをやめるのもなんだよなと思ってそのままにしてある。堀内は俺にべったり抱きついてそのでかい身体をちぢこませていた。やっぱ怖いんじゃん、無理しやがって。

でもこんな堀内を見るのも新鮮で楽しいから放っておく。いつもより酒のペースがかなりはやい堀内は、もうかなり酔ってるみたいだった。ぎゅうぎゅうと抱えられてくるしいけど、俺だって映画がこわくないわけじゃないから、ちょうどいい。

「…!」

映画のほうは、悪魔に苦しめられる女の子の母親が、助けを求めて教会に駆け込んでいるところだった。振り返った神父の顔が半分壊死してゾンビみたいになっていて、思わず悲鳴が漏れる。怖い。でもって状況をぜんぜん把握してないくせに俺がビクッとしたことにビクッとした堀内が、ますますぎゅうぎゅうしがみついてきた。そろそろ窒息しそう。

「うわ、うわ…」

時計を見れば映画もそろそろクライマックスで、悪魔に負けてしまった神父と怨霊にとりつかれた娘との間に挟まれた母親が狂ったように悲鳴をあげているシーンに嫌な予感しかしない。堀内のせなかに爪を立てて、でも画面から目はそらせないで、俺はかわいそうな母親が悪魔たちに殺されてしまうのを最後まで見届けてしまった。全身に鳥肌が立っている。

「…これで終わりかよ…」

なんて救いのないラストだ。後味悪いっていうか、怖いっいうか、でも面白くなかったわけじゃなくて。なんて思いながら堀内の背中をぽんぽん叩く。食い散らかされた母親に警官隊がかけつけるシーンだし、もう終わるだろうって思ったからだったんだけど。

「っ…!」

ちょうど、堀内が俺の肩から顔をあげて、画面を振り向いたそのとき。
いきなり悪魔の顔をした女の子が、画面いっぱいに飛びかかってきたものだから。

ひっとひきつった悲鳴を上げた俺をめいっぱい抱きしめて、堀内が悲鳴をかみ殺す。
…い、いまのは、反則だろ…。

「……」

何事もなかったかのように流れ出したスタッフロールの画面を、堀内はリモコンをたぐり寄せてテレビごと消してしまった。

「…えっと、ごめん」
「……わざとですか」

ち、ちげーし!と主張したけれど、酔って態度のでかいうえにちょっと涙目な堀内は俺の話を聞いてはくれなかった。ちょっと据わった目で俺をぺしっと放り捨てて立ち上がり、のしのしとテレビのほうに歩いていく。

あんだけべったりしていた熱がなくなってしまうとちょっと薄ら寒くて、怒らせてしまったかとおそるおそる堀内の名前を呼べば、どうやらDVDを入れ換えたらしいあいつが振り向いて笑う。

…そりゃあもう、ぞくっとするような、すがすがしい笑顔で。

「…べつにこわくないですし。…まだまだ夜は長いですよ、せんぱい」

自棄になって二本目のホラー映画の再生ボタンを押しやがった堀内は戻ってきてふたたび俺を抱え込むと、ちょっと危ない笑い声をあげながら始まった映画を見始めた。

「な、なあ、堀内、俺が悪かったって…」
「こわくないです!」

やばい、酔ったこいつ言うこと聞かない。
…結局朝までずっとホラー映画見っぱなしで俺は怖くて寝れなかったのに、俺を抱えたままこいつはすやすや安眠しやがった。そしたら堀内のやつ、なんにも覚えてないとか抜かしやがったから、俺が一発殴りたくなったのも許されると思う。












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