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嘘から出た真
分かりづらいツンデレ



「お前なんか、お前なんか、だいっきらいだー!!」

という言葉と共に顔面に筆箱を投げつけられたときの俺の気持ちを、三十文字程度で答えよ。(十点)
もちろんそれを言い放った相手が俺の友人であり想い人でありなおかつ、たった今俺に告白して断られて泣きながら教室を飛び出してきた相手のことを好きだった男である、という要素を加えなければならない。泣きたいのは俺のほうだ、くそったれ。

先ほど俺に可愛らしいピンクの便箋を手渡そうとしてきた女の子はクラスでもかわいいと噂されている子で、ここ数カ月この友人がその子のことをかわいいとか付き合いたいとか囃し立てていたことはもちろん知っていた。どんなに髪型を気にしたって服装に気を遣ったってかっこいい付き合いたいと思っては貰えない俺にとっては、もちろんほの暗い嫉妬の対象になっていた子なわけである。そんな子に、俺が、やさしく出来るわけがなかった。好きなひとがいるから、ごめん。びっくりするぐらい平坦な声でそういった俺は、手紙を受け取ることすらしなかったのだ。息を呑んでこっちを見ていたあいつが、お前それは、って言い掛けたとたん、その子はその何を見るんだよってくらいおっきな目からぼろぼろ涙を零し、けれど気丈にぺこりと頭を下げて、教室を飛び出していってしまった。

夕暮れの教室で、そして俺は筆箱を投げつけられたわけである。

「手紙ぐらい受け取ってやれよ!!瀬川さんに告白されときながら、なんだよその態度!泣かせやがって!このばか!!」

そんなこと言われたって、俺にとってはますますあの子に対する悪意が増すばかりだ。俺は唇を噛み、声を荒げて涙目になっているあいつをじっと見返す。言っておくけど俺はお前があの子のことを好きになるずっと前からお前の事が好きだし、あの子が俺の事見てたよりもずっとお前のことを見てる。なのにちっともお前は俺の気持ちに気付かないし(当然だけど)、挙句にそんなことをいう。ひどいと思わないか。

「なんでだよ!断るにしたって、他にも傷つけない断り方なんていっぱいあるだろうが!」

じりじりと胸の底の方が焼けて焦げる。こいつが好きになるわけもない、嫉妬の炎だ。男の嫉妬はほんとうに見苦しいと思う。こいつは俺のこと、好きでも何でもないってのに。

「お前には関係ねえだろ」
「…っ、おまえ、俺が瀬川さんの事好きだったこと、知ってるくせに!」

好きだったこと。すでに過去形にされた言葉に、俺は思わず顔を上げた。あいつは眉をきゅっと寄せて、俺の足元に転がっていた筆箱をもう一度ひっつかんでまた振りかぶって俺に投げつけてくる。ぼすん、と胸に当たって、また落ちた。あまりものが入っていない俺の筆箱は当たってもあまり痛くないけれど、あんまりな仕打ちだと思う。

「なんだよ、その顔」
「…え、なんで」
「とぼけんなよ!知ってだろ!」

そりゃ知ってた。知ってたけど、そうじゃなくて。…俺はまだ、お前があの子のことを好きだとばかり。どうしようもなく喜んでしまうのは、致し方がない。だって俺はあいつのことが好きなんだから。とても。

「っ、失恋したのは、瀬川さんだけじゃねえんだよ!」

…――そうだ、お前だけじゃない。俺もだ。俺だって。…俺だって、お前のこと好きなのに。もやもやと言いたいことが俺の胸に降り積もっていく。俺の襟首を掴んで捻り上げたあいつが、ちょっと背伸びをしながら俺にくってかかる。

「じゃあ追いかければ。慰めればいいじゃん」

俺を振り向いてくれないんなら。口に出したはいいけどほんとうにこいつがそうして瀬川さんといったらしいあの子とうまく行くようなことになったら、俺はすごく後悔すると思う。自分で吐き出した言葉に後悔をして唇を噛めば、ぎりっという鈍く歯を噛み締める音がした。俺が自分で出したのかと思ったら、そうではない。

「…っ、この…!」

けれどこいつは、踵を返してあの子を追い掛けやしなかった。だってこいつ、いい奴だもんな。一度諦めた恋は、きっともう追いかけられない。目の前で友達に振られた女の子に、たとえいま告白したら恋が叶うかもって思ってても、そのこころにつけ入る様に告白したりはできないやつだ。

でも、俺は違う。

例えば目の前で失恋を告白した片想いの相手がたとえ俺に憤りを抱いていたとしても殴りかかってきたその手を掴むことを躊躇いはしないし、どう考えても玉砕ってか空気読めよってタイミングだってことは分かっててももう胸にせり上がって口からはみ出しちまった感情を吐き出すのを止めることなんて出来やしない。

「…出来ないんだろ?」

なら、俺にすればいいのに。何にも考えなくていいくらい、お前を一杯にしてやれるのに。至近距離であいつの顔が、苦虫を噛み潰したような表情になるのが、よく見えた。








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