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光彩セレブレーション




帝豊高校の元旦は、ひどく忙しなく幕を開ける。帰郷しない生徒たちのためにと毎年催されている伝統行事は、もはやそのために新年を寮で迎える生徒がいるほどに人気であるのだ。…ということを、柊は十二月三十日に知った。

「―――で、今年は柊にも出てほしくってさ」

ということを言われたのもまた、その日の夜だった。思わずこたつに入ってみかんを剥いていた柊が立ち上がったのも無理はないと思う。忘年会と銘打って適当に友人を呼び集めた悠里は先ほどまでマリオカートに興じていたのだけれど、リオンと雅臣の白熱する戦いにちょっと引いたようでさっさとこたつに引きこもっている。悠里によかったら、と誘われてからというもの口もきけないくらいに緊張していたリオンも、先ほどからゲームに熱中していた。というか殺意すら感じる。レースのゲームなのに。そしてそれは雅臣も一緒で、柊は情景のミスマッチさに何となく笑ってしまったのだけど。(雅臣おまえピーチ姫って、って思ったのは、ひみつだ。ちなみにリオンはクッパだった)こうして大勢で過ごす年越しなんて初めてだ、なんて、悠里がひどく嬉しそうにしていたから、柊はそれでよかった。

大みそかは忙しかった。翌日に控えた行事のために準備をして、体育館でニューイヤーカウントダウンをして校庭で花火を打ち上げ、とまあ、どう考えても高校の行事ではないようなことをしたわけである。ほんの少しだけ仮眠を取って初日の出をバックに記念撮影したりして、それから生徒会役員は大わらわだった。

―――体育館で、残っている生徒たちにお年玉を配るのである。

もちろんお年玉といっても食堂の食券だとかそういったものばかりなのだけれど、憧れの的である生徒会と間近で触れ合えるとあっては生徒にとってはかなり楽しい行事であるらしい。おまけに今日は、皆がサービス精神旺盛なのだ。

「…椋くん、手馴れてるな」
「任せてください!作画の上ではやっぱりどうやって着てるのか分かってないとつらいんですよー」

ちょっと後半なにを言っているのかわからなかったけれど、悠里は早々に追及するのを諦めた。もとより椋の前で詮索をするのは無駄だ。手際良く帯が回され、複雑怪奇なヒモの結びをかれの手が鮮やかに仕上げてくれるのを見る。

「…あの、悠里さん」
「ん?」
「写真いいですか…!」
「構わないけど。どうしたんだよ、へんなほう向いて」
「ちょっと鼻血で汚してしまいそうなので。ありがとうございます!!」

そっぽを向いた椋にこころよく許可を出し、悠里はちょっと笑って椋がカメラを取り出すのを待った。行事が始まるまではまだ少し時間があるが、悠里は最終確認やなんかをしないといけないから早めに支度を済ませるのだ。身にまとうのは黒に近い紺を基調にした紋付き袴だ。代々の生徒会長に伝わるそのひどく高価そうな袴は、長身の悠里によく映える。

「悠里さま、す、素敵です…!」

本来は自分で手配をする着付けをこころよく請け負ってくれた椋は、どうやらこの姿の悠里をリオンに一足先に見せようと気を回していたようだ。かれの手配していた部屋にはすでにリオンが居た。ちょっと気恥ずかしかったけれど、喜んでくれたようでよかった、と思う。

「はい、次は兄さん」
「…お前さ、この袴どこから出してきたんだよ」
「新聞部に抜かりはないよ!振り袖とちょっと迷ったんだけど、新年早々大変な目に遭いたくなかったからね」

なんで男子校新聞局に振り袖があるんだ。というのはもちろん、悠里や柊の間に共通して浮かんだ考えだったと思う。悠里のものより淡い色をした袴を着つけられながら、柊と悠里は目線を合わせて苦笑いをした。

―――会場となるのは体育館だ。他の生徒会のメンバーもすでに準備をしているだろう。悠里は柊を待って、椋とリオンにあとでな、と言ってから部屋を後にした。

「…すげえ苦しいんだけど」
「頑張れ。二三時間ずっと立ちっぱなしだけどな」
「なんで俺まで混ざるんだよ」
「王道転校生だからに決まってるだろ」

なんて言いながら、着なれない礼装でふたりは体育館へと向かった。氷の生徒会長モードに切り替えるタイミングを模索しているらしい悠里の横顔はどっちつかずの表情で、柊はちょっと笑ってしまう。冬休み中ということもあって、悠里はいまいち仮面をつけきれていない。

「おっ、似合ってんじゃん」
「…なんていうか、予想通りだわ、お前」

白い紋付き袴でひと際目立っているのは、着物姿が板についている雅臣だった。悠里と柊を認めて片手を上げ、風紀委員たちに指示を出してから近寄ってくる。どうやら生徒たちの整列や誘導を一手に引き受けているらしかった。

「遅かったね、悠里」

副会長や会計たちも、思い思いに着飾ってそれぞれ持ち場についていた。悠里の席は中央で、お年玉の入った袋を机の上に持ち上げる。

「おい、準備いいか?」

襟元に付けたインカムで風紀委員と連絡を取っていた雅臣が、そうして所定位置についた面々に声をかけた。左右を振り仰ぎ、皆が準備を整えたことを確認してから頷いて見せた。かれが風紀委員に合図をする。

体育館の扉が大きく開け放たれた。ひとが雪崩れ込んでくるのが見える。悠里は立ち上がり、息を目いっぱい吸い込んで声を張り上げた。どうしようもなく気持ちが浮かれるのは、今年もきっと楽しいとそうやって思えるのは、たぶん悠里が変わりつつあるからだと思う。自分でもそう思っているから、心はひどく弾んでいた。

「あけまして、おめでとう!」











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