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「好きなタイプ?――俺は、ちょっと抜けてるくらいのほうが好きかな」

テレビのなかで、龍太郎が喋っている。かわいい女の子のインタビュアーが過剰反応を返しているなか、俺は手元の雑誌をぺらぺら捲りながらそれをなんとなく眺めていた。女の噂が立たない高木龍一郎にじれたのか、かなりうさんくさい記事を書かれている。曰く、高木龍一郎は収録のときにお土産ものとして渡される菓子を必ず持って帰る。それはつまり、それを誰かに渡しているのだ。よって高木龍一郎には、彼女がいる…、なーんて、それちょっと飛躍しすぎでない?というような記事を。

俺がもしふつうの一般人だったならなんだよ高木龍一郎マメじゃん!イイ男じゃん!なんて言えたのに、そのお菓子とか番組の景品とかをいつも食べている身としてはたいへんむずがゆい記事であるわけだった。世の女性がた、悲しむことはなにもない。高木龍一郎がお菓子をいそいそと持って帰ってくるのは、ひとえに甘党の幼馴染のためなのである。

「龍一郎さん、好きな人いるんですか?」
「―――んー、どうだろうね。ヒミツ」

人差し指を立ててウインクした高木龍一郎にまたインタビュアーがぽわんとなったところで、シャワーをあがったらしい龍太郎が寄ってきてぶつりとテレビを消した。なんだよ見てたのに、と唇を尖らせて噂の人気俳優さまを見上げると、そっぽを向いている。なんだこいつ照れてんのか。最初のころは俺が高木龍一郎の番組の感想言うだけでぎゃあぎゃあ言ってたこいつだけど、さいきんめっきりお互いにテレビのなかの高木龍一郎に慣れたせいでこんなに照れることはなかった。新鮮だったので、ますます俺は気をよくする。

「つうかお前、いくら答えに詰まったからって俺の性格テレビで暴露すんなよ」
「別にお前のことじゃねーし」
「『間違って歯磨き粉で洗顔しちゃうような子』とか完全に俺じゃん!お袋にからかわれるんだからやめろよ!」
「……し、しょうがねえだろ、無難に答えなきゃいけねえんだから」
「そこはあれだ。清楚な子とかいっときゃいいんだって」

何がどうなって無難な答えが歯磨き粉で顔洗うようなタイプなんだよ!ていうかあれは修学旅行の日だってのに寝坊して龍太郎が迎えに来ちゃって焦ったからだってーの!と俺は思うのだけれど、それがこうして高木龍一郎のトークのネタになるならよかったのかもしれない。お袋と龍太郎がいっしょになって大爆笑していたのはいい思い出だ。

「ていうか週刊誌デビューおめでとう」
「嬉しくねえよ、ありがとう」

髪をぐしゃぐしゃ適当にタオルドライしながら(仮にも芸能人がそれでいいのか)龍太郎が俺の読んでいた雑誌をひょいと取り上げた。ちなみにその雑誌、岩瀬さん(鬼マネ)が俺にくれたもの。うちの龍一郎もついに週刊誌デビューよ!まじっすかおめでとうございます!みたいな会話を交わしたのは記憶にあたらしい。

記事を読んでいた龍太郎の耳がじわじわと赤くなる。面白い。やっぱり週刊誌に自分の記事が書かれるってのはいろいろ恥ずかしいものなんだろうか。寄っていって手元を覗きこむと、俺がさっき見ていたのと同じ記事を読んでいる。

「見たかよ、この記事!土産持って帰るとかよく見てるよなー」
「……忍」
「あ、べつに無理して持って帰ってこなくていいんだぜ?また変に記事書かれても大変だろうし、彼女ちょっと寂しいけど我慢しちゃう」

なんてふざけていったのに、龍太郎にべしっとデコピンされた。ちょっと痛かった。くるりと俺に背を向けた龍太郎の髪のひとふさから水滴が飛ぶ。フローリングに点々と痕を残すそれを目で追いながら、俺は龍太郎の背中を見た。

「…いいよ。気にすんな」
「え、でも」
「いいんだって。俺が無理して食うより、お前がにこにこ嬉しそうに食ったほうがいいに決まってる」

そういって龍太郎が喉の奥でかすかに笑う。かっこいいこと言いやがって!ちょっとときめいちまったじゃねえか!なんて思いながら、俺は龍太郎の背中にしなだれかかった。雑誌はもう投げ出されている。どうやら最近俺が注目してるアイドルのグラビアが載ってるみたいだ。あとで見ようっと。

「このイケメン!愛してる!」
「…、重い」

龍太郎つれない!なんて口先では言いながら、耳の先が赤いことをばっちり分かっているからにやにやしてしまう。意外と可愛いとこあるよななーんて思いながら、俺は立ち上がって飲み物を取りにいった。何飲むー、と聞くと、てきとうにチューハイ、なんて返ってくる。なんて安上がりなんだろう。稼いでるんだからもっとリッチなもの飲めばいいのに。でもなんだか、そんな龍太郎の変わらないところに安心している俺もいるわけで。

「冷蔵庫の一番上に、今日の土産。全国人気おみやのナンバーワン」
「えっマジで!やった!いつ放送?」
「再来週くらい」
「もうっ、大好きダーリン!」
「…俺も愛してるよハニー」

そうノリよく答えてくれた龍太郎の返事がちょっと疲れていたのは、なんでなんだろう。









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