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loving you!



こいつが俺のこと好きで好きでしょうがないことなんて知ってた。俺のことが大事でたまらなくて、まるで宝物みたいに扱っているってことも。

「エリオット」

返事の代わりにもぞもぞと肩を揺することしか出来ない俺の背中に腕を回し、アルがやさしく俺の名前を呼ぶ。アルの声が好きだ。低く穏やかで、やわらかい声。それが普段よりいっそう優しく俺の名を呼ぶのがくすぐったくてうれしい。

「…まだ拗ねてるのか?」

俺はガキか。ふたつも年下の癖に。たしかにそっぽを向いている俺のさまは拗ねてるようにみえてるかもしれないが(実際拗ねてないっていったらウソになる)、それだけじゃない。だから俺は無言の圧力をかけているのだ、この馬鹿でいとしい賢王さまに。

「怒らせたのなら謝る。だけどな」

俺はお前を手放すつもりはないし、お前の他にだれかを好きになることもない。
アルが言ったのは、そんなような言葉だった。馬鹿な男だ。いっくらでも綺麗だったり可愛かったり可憐だったりする女の子を、しかも身分も趣味も選り取り見取りで選べるような立場な癖にちっともそれを有効活用しない。俺がアルだったらとりあえず後宮はハーレムにするけどな。もったいない。顔と権力を無駄遣いしすぎだ。

唯一俺しか後宮に持たないアルは、もちろんまわりからみてももったいない物件であるらしい。空いている王妃の座を手にするため、機会があれば女の子たちがそれぞれ思惑をもってアルに近づいていく。アルも残念なことに惚れた弱みを差し引いたってめちゃくちゃカッコいいわけで、王妃の座を狙う彼女たちのアプローチにも熱が入る。

殊更に今日みたいなパーティーではそれが顕著だった。少し離れた国から偉い人がきたから行われた今日のパーティーでも、集められた美姫たちはみんなアルのご機嫌を取ろうと必死だったわけである。なんでこういうときは城を逃げ回ってパーティー参加を回避する俺がそれをしってるかっていうと、うっかりそのよその国の偉い人と仲良くなった(もちろんパン職人として)せいで、パーティーに君も出るといいよ!なんて感じで連れていかれたせいだった。

で、もっというと、最初に拗ねたのはアルのほうだった。あれだけパーティーに出るのを渋ってた俺がよその国の伝統衣装(いろんな飾りがついてめっちゃきれいだった)を着せられてちょこんとさもお付きの者ですみたいに偉い人のそばに座っていたのは、まあ確かに拗ねられても仕方ないかなーとは思うよ。でも俺だって国賓に失礼がないようにって気を遣ったのだ。まじいい奴、俺。

で、せっかくの衣装での変装も虚しくあっさり俺を見破ったアルは回りに群がってたきれいなおねいさんたちをほとんど振り払うようにして俺のほうに寄ってきて、なんかいろいろお説教してた。目立ったせいで恥ずかしくてほとんど覚えてないけど。ついでにエリオットがこの国の王妃だったなんて!とか言ってた国賓は殴っておいた。グーで。さっきと言ってる事が違うとかは考えてはいけない。

なんかそれで自分がどれだけアルに大事にされてるのか、知ってたはずなのに思い知らされて俺は拗ねているわけだった。パーティーがはけてからも、アルの問いには一切答えてやってない。

俺だってアルのことがすきだ。ほんとは、めちゃくちゃすきだ。だからこそ、俺以外にもちゃんと王妃を娶ったほうがいいって本気で思う。好きだから、しあわせになってほしいからなおさら。だのにアルはそれを言わせてくれないのだ。口に出す度になかばでキスをされて、言葉ごと飲み込まれてしまう。このアルの部屋に戻ってくるまでだって何回もそのやりとりがあった。まるでバカップルみたいではずかしい。くそう。

「いい加減分かれ、エリオット」
「…」

諭すような声だった。わけがわからない。俺がどんな思いでこいつに結婚を薦めているのかこいつはちゃんと分かってるんだろうか。ジト目で睨むと、まぶたにキスを落とされる。

こんなにされたら、もう抑えきれなくなるってのに。ほんとはアルがこんなに俺のこと愛してくれるのがうれしくてうれしくてたまんないんだって、さっき駆け寄ってきてくれたときほんとは泣きそうなくらい嬉しかったって、俺はもう、不安に思うことなんてなにもないんだって、こころのうちに溜めておくことが出来なくなる。

アルのこうふくも国の未来もなんにも考えないで、アルが与えてくれる優しさに愛に溺れてしまう。俺のほうが年上なんだから、ちゃんとアルのこと考えてやらなきゃいけないのに。

「…そんなに悲しそうな顔を、するな」

泣き出しそうに顔を歪めた俺のほおやこめかみにアルがキスを散らす。いとしくていとしくてたまんないってふうに、アルが俺に触れる。こころのすべてを浸すくらいに、恐れることもためらいもなくアルがくれる愛が降り積もる。

「…なにか言ってくれエリオット。いつもみたいに」

アルは俺になんにも望まない。…いつもみたいに素直になれないでむくれてばっかりいても、きっとアルは気にしないんだろう。それほどまでに、こいつの愛は深い。

「…、」

吐いた言葉は震えていた。アルが聞き取ろうと俺の顔を覗き込む。やさしい表情だった。俺は覚悟を決めて、深呼吸してから口を開く。

「好き、大好き」

アルのきれいな空色の目がまんまるに見開かれるのを、俺は死ぬほど恥ずかしく眺めた。背中があわあわしている感じがする。顔から火が出そうだ。

「俺、おまえのことすごく好きだ…、大好きなんだよ」

だから俺は、アルに手を延ばしてしまう。俺のことばっかり大事にしてほんとうに他にだれかを選ぶ気のないこいつの誠実さを、あのときくれた言葉への誠意を甘受してしまう。

「アル、すきだ、愛してる」

ほんとはお前が俺の薦めを断る度に嬉しかったんだ。ひどいやつだろう、俺は。そう最後まで口にすることは出来なかった。背中に回っていたアルの腕が、ものすごい力で俺を抱き寄せる。俺の身体は軽々とアルの胸のなかに突っ込んだ。顎に手指が掛かって覚悟をする時間すらなく貪るようにキスをされて、なにも考えられなくなった。

「…は、」

息苦しさに喘ぐ俺を見兼ねてキスがほどけるまでの時間が、ひどく長く感じる。アルは信じられないくらい甘い欲情の色に濡れた瞳で、あわく微笑った。最高に色っぽくて胸がドキドキする。くそう、年下のくせに。

「そんなこと、言われなくても知ってた」

なんていうくせにそりゃあもう嬉しそうな顔をするもんだから、俺まで嬉しくなってしまった。一年に一度くらいこうやって素直になるのも悪くないかな、なんて思ったりして。

俺のことがすきで大事でたまらないってふうに笑ったアルの手指が、耳まで真っ赤な俺のてのひらに絡んで強く握りしめる。目を閉じてまた始まったさっきよりさらに深いくちづけに身体ごとアルに寄り掛かりながら、俺はゆっくり目を閉じた。





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