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IT IS NONSENSE!
風紀委員長×流され生徒会長



「どうにでもなれ」

と呟いて、俺は抵抗するのを止めて目の前の変態に身体を委ねた。ずっと立ちっぱなしでいい加減だるかった身体を、結構な力学的エネルギーがかかっただろうに問題なく抱え止められるとたしかにちょっと楽になる。これはいいかもしれない、と俺はひらめいた。このまま運んでもらえばいいのだ、と。生徒会室は四階にあるのでたいへんに移動がだるいのだが、これなら便利だ。

「…あっ、こら、そんなダラっとすんな。恥じらってるのがいいんだよ」
「だまれ変態」

俺の腰に腕を回して所謂お姫様だっこをしたこの変態は、完全に乗り物扱いされていることなど気にも止めずに俺の姿勢を注意する。なんなんだ本当に。この変態が俺に向ける変態的熱意については、ほんとうに理解が出来ない。ていうか理解するのも面倒くさい。

「いいの?このまま皆の前に出てっても?天下の生徒会長がお姫様だっこで登場だぜ?」
「べつにいい。生徒会室までこのままお前が俺を運搬出来るならな」
「運搬って…もうちょっとこう、あるじゃん…」

なぜだかしゅんとした顔になった変態は、俺の頬に頬ずりすると(やめろきもちわるい)、そのむだに端正な顔で俺の顔をしょぼんと眺めた。近い。けどだいぶ眠かったので、それはやたら宿題を出す化学の禿げた先生のせいなんだが、俺はだいぶウトウトしている。わけで、ますます変態が困った顔をした。

「…恥ずかしがるのがイイのに」
「黙れ変態」
「あ、それイイ。無表情で冷たくされるとゾクゾクする」

こいつになにをいっても無駄だ、というのは、俺のほうも分かってきた。だからこいつがぶつくさ文句を言いながらも風紀委員会の会議が行われていた教室から階段をゆっくり上がっていくのを黙って待つ。すごく便利だ。楽だし。ただ問題は、およそ三十六度三分程度のひとの体温とほとんど横たわっているような姿勢のせいで本気で寝かけているってことだろう。そろそろ頭の芯がふわっとしてきて、いまにも意識を手放せそうだった。

すると、力学的に考えて頭部の重さのせいでこのままだとこいつの腕のなかから頭を下にして滑り落ちてしまう。俺の計算だと俺が眠りについてから七秒以内にそれは起こり得る可能性があった。それを考えると寝るのはよろしくない。けれどこの感覚はもう半分以上眠りのなかにいるときのふわふわなので、俺は大変に悩んだ。眠りたいけれど、痛いのはいやだ。

なので、俺に残された選択肢はこいつの首にしがみつくことしかなかった。腕を首に回し、肘をじぶんの手で掴む。運搬元の咽喉が締まらないように気を遣って、今度こそ俺は頭を落ちつける場所を見つけた。すなわちこいつの肩口に、頭を預ければいいのである。これで姿勢も安定するしずり落ちる心配もない。完璧だ。

「やけに積極的かと思ったら、お前、本気で寝る気だろ!」

なにか変態が喚いているが気にしたら負けだと思う。次に待っている打ち合わせも、まあみんなが何とかしてくれるだろう。俺がこういう性格だってことは、副会長やみんなもよく知っている。フォローはばっちりだ。とりあえず、眠いものは眠いっていうのは自明の論だった。

「ちょっとは意識しろよ!高度な放置プレイすぎて俺泣いちゃう!」

けれどこいつは俺を落とすこともなく運搬作業を続けてくれる。惚れた弱みってやつだなかわいそうに、と完全に他人事として考えながら、俺は寝ぼけた頭で計算した。階段を18段昇ったから二階まであと4段、ここまでのペースとこいつのひとり漫才を考えると四階に上がるまでにあと三分三十八秒。そこから生徒会室まではたしか直線距離で八十メートルあるから、平均的な男性の徒歩のスピードを80メートルとすると六十五キロの俺を抱えているこいつのスピードはおおよそ分速65メートルにまで遅くなることが予測される。それでも一分強で到着だ。五分以内には生徒会室まで運ばれているだろう。たぶん。

「…ガチで寝ちゃった?」

なんて俺がこのいかに楽をするかの計算をするために培った無駄な能力をフル活用させていることも知らず、変態は階段の途中で立ち止った。計算が狂う。とりあえず打ち合わせが始まるまであと七分二十八秒くらいあるはずだから、多少の超過は見過ごせた。つまり俺が寝てない、といえばいいんだけど、それもちょっとめんどくさい。というか半分以上寝ているわけだし。

「……何なんだよ、ホント」

言葉と裏腹に俺を支えていないほうの手で俺のほおを擽った変態の声が、くすぐったく聞こえた。意識は眠りの波の狭間にあって、起きているのか寝ているのか客観的に判断が出来ないような状況にいる俺の名を、手の主があわく呼ぶ。

「……」

返事のないことに安堵したのか息を吐いた変態が、身をかがめた気配がした。続けて、さっきよりも二分ばかし体温が上がったような気がするあいつが俺の目尻にキスをしたらしい感覚。どうやらまだ俺は起きていたようで、じりじりと俺の体温まで上昇していくのがわかった。平熱が三十五度八分なことを考えると、たぶんいまは三十六度二分くらいあるんじゃないだろうか。照れ隠しみたいにあいつが勢いよく階段を駆け上がる。また計算が狂った。どうやら会議の三分前には間に合いそうだとそろばんをはじき終わりながら、俺は眠りかけた意識と頬にまで上がってきた熱の狭間でひどく葛藤することになる。







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