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帰りの道も、シルヴァはスグリをとても気遣ってくれたから、スグリの身体が悲鳴を上げることはなかった。道々に休憩を挟んだせいでムラに戻ったころにはとっぷりと日もくれてしまっていたけれど、スグリはシルヴァといっしょだから不安もない。出来あがった花籠をシルヴァが持ってくれたから、シルヴァに引かれていないほうのスグリの手には最初にシルヴァがくれたあの紅い果実が握られているだけだ。

蔦の束を肩に掛けたシルヴァの足取りはいくらたっても最初と変わらずゆっくりで、それがかれの本来でないことなどすぐにわかってしまうからスグリはこそばゆさで一杯になる。結局何も言えないままに、…言えたとしても言葉はかれに通じないのだけれど、それでもスグリはもどかしかった。ありがとう、と伝えることすら出来ないでいる。だからそれが伝わるように、スグリはシルヴァの手をぎゅっと握っていた。

「…スグリ」

着いたよ、とでもいうふうに、シルヴァがつないだ手を軽く振る。顔を上げると高い門が目の前にあった。蔦を抱え直してムラのなかに戻るシルヴァの背に駆け寄りながら、スグリはきょろきょろと周囲を見回す。相変わらず人の気配はなかった。

「…あ」

けれど、シルヴァの家のまえまで来た時に、人間がふたり家の前に立っていることに気付いてスグリがたたらを踏む。シルヴァの背後に隠れるようにすると、笑ったかれに頭をぐしゃりと撫でられた。

家の前にいたふたりは、スグリがムラから攫われてきたときに家にいたスグリをひきづりだした若い男と、かれになにか指示を出していた年上の男だった。シルヴァを見て片手を上げ、かれとなにかを話している。ぎゅうとかれの腰にしがみついてふたりのほうを見ないようにしていると、覗きこまれる気配がした。

「…」

シルヴァが三、四言なにかをいうと、かれらがそれに応じるような声を上げる。恐る恐る顔を上げると、物珍しそうな顔をしてスグリを覗きこんだふたりが各々家であるらしいところへ帰っていく背中が見えた。

「スグリ」
「…シルヴァ」

大丈夫?と笑いを含んだような表情で見られ、スグリは僅かに拗ねたようにほおを膨らませて頷いた。シルヴァがスグリのせなかを家のなかへと押しやる。果実を持って居間に戻って、それをかれへと作った花冠のとなりに乗せた。その間にシルヴァが腰の弓を外したり花籠を机にのせたり蔦を束ねたり、としているのを、なんとなく眺める。

ムラにきてからは何日か経っているけれど、スグリが目覚めたのは今朝だ。まだまだしらないことばかりで、手持無沙汰になると何をしていいのかさっぱりわからない。籠を編もうか、それとも食糧庫のあの雑多さをなんとかしてみようか、と所帯じみたことを考えていたら目下の整理を終えたらしいシルヴァがスグリのほうへと寄ってきた。

「スグリ、」

手を差し伸べられる。疑問なくそれに掌を重ねると、そのまま手を引かれて寝室に連れていかれた。そういえば寝台はひとつしかないわけで、端でちいさく丸まるにしても邪魔にならないだろうかとスグリは心配になる。寝相はあまり褒められたものではなかった。

「んっ?」

なんて思いながらなにやら布を引っ張り出していたシルヴァの背中を見ていたら、唐突に振り返ったシルヴァになにかを掛けられた。自分の身体を見下ろせば、どうやらそれは外套かなにかのようだった。かれの手でまえを止められるととても身体が暖かい。シルヴァ自身も同じようなものを着て、それからふたたび手を掴まれた。外へ向かうらしい、とスグリはすぐに悟る。

「シルヴァ?」

夜も更けた。どこへ行こうというのだろうか、と思いながらかれに手を引かれるままに外に出ると、先ほどムラに戻ったときには感じなかった底冷えのする寒さにすこしびっくりする。上着を着せかけてくれたのはそのせいであるようだった。

そして、さきほどと違うことがもう一点ある。人影がたくさん見え隠れしていた。思わずぴったりシルヴァのとなりに寄ると、安心させるようにぽんぽんと背中を叩いてくれる。ここに連れてこられているはずのムラの女たちはどうなっているのだろうか。それらしい姿を探してきょろきょろしていたら、存外に早く目的地についてしまった。

「スグリ」

シルヴァの家とは間取りのちがう、だが大きな家だった。家というよりは集会場、といったほうが近いのかもしれない。居間や食糧庫はみあたらなかった。廊下の突き当たりにある部屋に連れていかれ、スグリは何が待ち受けているのか不安になってシルヴァの手を握るてのひらに力を込める。

「…!」

がらんどうの部屋には、隅に集まるようになって人影がたくさんあった。それを見てスグリは身体を竦ませる。新たな人間の登場にいっせいに振り返ったその人影たちも、おなじような反応をした。

「スグリ!」
「みんな!」

そこに居たのは、同じムラの女たちだった。ざっと見積もって十人はいる。シルヴァがぽん、とスグリの背を押してくれたから、スグリは頷いて彼女たちのほうへ駆け寄った。





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