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対策会議は予定通り、夏休みに突入したその日の午後から悠里の部屋で行われている。蒸し暑い部屋にはクーラーが回り、悠里のあまり好きでない人工的な涼しさを齎していた。

「…何で居るんだ、お前」
「何でって!こんな豪華なメンバーの揃った密談を僕が放っておくわけないだろ!」

眼前。腰骨を蹴っ飛ばされて飛んできた椋がフローリングと熱くキスをするのを生ぬるい目で見ながら、悠里はテーブルをはさんで向かい合って難しい顔をしている柊と雅臣を見比べた。テーブルの上には学校の間取り図と、何とかというチームの主要メンバーの顔写真が乱雑に広げられている。どれも美形だったけれど、髪とかいろいろカラフルすぎる。というのが、悠里の感想だ。

「なにか問題でもあったのか?」

とりあえず急遽やってきた椋のぶんもアイスティーを入れてやり、悠里はふたりに声を掛けてみる。難しい顔をした二人の間の、なんだかよく知らないけれど一番目立っている銀髪の男の写真を手に取ると、裏にリーダーだという旨が書かれていた。

「…Aだったと思う」
「いや、Dだった」

まるで意味の分からないふたりの会話は置いておいて、ざっとそのプロフィールを一瞥する。悠里よりも背が高い。雅臣と同じか、それ以上あるだろう。すごく不良っぽいルックスにそぐわずに古風な名前をしていた。チーム内ではトラ、と呼ばれているが、本名は虎次郎というらしい。ちょっと笑ってしまった。虎次郎。かわいい。ちいさいころお世話になった通信教材のことをちらりと思い出しながら、悠里はそのきれいだけれど近寄りがたい男の顔を眺める。

「この男は属性で言うと執着系ですね!ヤンデレ度は薄いですが決め台詞は『俺のモンにならねェなら殺す』です」
「うん、すごく端的な説明ありがとう椋くん」

横から椋が声をかけてきた。それだけでわかるようになってしまった自分にものすごく泣きたくなりながら、とりあえず危ない奴、と頭の中に評価を書き加える。ほくほくした顔で解説をくれる椋に他の人の説明も任せてしまいながら、悠里はまだなにかアルファベットで争っているふたりを首を傾げて眺めた。

「あいつら何してんだ?」
「かれらのグループの名前のことですね。確かアルファベット五文字くらいなんですけど、僕も忘れちゃいました」

不毛な争いだということは理解をしたので、悠里はそれ以上の追及を止める。ふたりめは栗色の髪の、一見優等生風の青年だ。聞いたこともない古武術の遣い手である旨と、敬語鬼畜系の人間であることが椋から興奮気味に教えられる。こちらの名前はしづか、というらしい。ナンバー2に相応しく容赦のない制裁で有名だそうだ。どうやら入浴シーンなどは予定されていないらしい。

椋いわく、執着俺様×鬼畜ドSというのが熱いのだそうだ。よくわからない。昨今の流行りなんですよ!と力説をされたところで容赦のない柊の鉄拳が飛んできた。椋が飛んでいくのを目で追うのも不毛だと悟り、悠里は黙って雅臣の説明を聞く。

あとは情報面を一手に担当する天才ハッカーの宵、という青い髪の男をいれて、この三人が相手のチームのトップ3だそうだ。この男はどんな属性なんだろう、とちょっとでも思ってしまって悠里は絶望した。

「早くて明朝。ウチのやつらには警戒させてっけど、どのくらい持つかはわからねえな。城に攻めて来ンだから、最初が一番勢いがあるに決まってる」
「あいつらは数こそ多くはねえけど、単独行動が多いからな。どこから狙われるか分かったもんじゃねえ」
「ふうん。じゃあ多くデカい獲物をやったのが勝ちってことか」

やけに生き生きしているふたりに生ぬるい目を向けながら、悠里は侵入経路と称された相手チームが入ってきそうなマーカーの引かれた地図を見る。ほとんど塗りつぶされていた。無事なのはオートロックの寮くらいだろう。というのは、一般の生徒に手は出さないはずだという柊の見解とも一致していた。

「帰省しないやつらには寮にいれば安全だってのも伝えておく。生徒会のやつらは自分でなんとか出来るだろうし、親衛隊もいるから大丈夫だろ」

基本的に生徒会のメンバーはそれとなく学園を見まわったりトラブルの対応に追われるから、とてもじゃないが寮で隠れていることなんて出来ない。普段はそんなスキルの端も見せないけれど皆それなりに強いようなので安心して、悠里はまったく安心できない自分に集まる視線にかるく頭を掻く。

「…、出来るだけ傍にいてやるけど、こっちもこっちで忙しくなるからな」
「お前、寮に居た方がいいんじゃないか?仕事ならやっとくから」

口ぐちに二人に言われて悠里は頭を抱えたくなった。さっそくものすごく足手まといになっている。実は喧嘩に強いとかそういった設定があればよかったけれど、あいにく悠里にそれは備わっていなかった。喧嘩をすればふつうに負けるだろう。かといって皆の前では悠里はあくまで完全無欠な氷の生徒会長なわけで…、そんなジレンマに苦しんでいる悠里を知ってか知らずか、助け舟を出してくれたのは椋だった。

「それなら大丈夫だよ!夏休みの間は転校生なんかよりお傍にいられるって、リオンが張り切ってたからね」
「…でも北川だけじゃ危なくないか?」

さっそくかれに苦手意識を抱きまくりらしい柊が、ちょっと表情を引き攣らせて弟のほうを向く。それに答えたのは椋ではなくて、意外なことに雅臣だった。僅かに表情を曇らせ眉を寄せて、小声でつぶやく。

「いや。…アイツはマフィアのドンの直系だからな。跡目争いに巻き込まれないようドイツと日本で生活してるみたいだが素質は十分らしい。ある意味ものすごい番犬かもしれねえ」
「どおりであんな殺し屋みたいな目してたのか…」

何だか知らないが納得している柊に較べて、悠里はとんでもない事実の発覚に何も言えなくなってしまっている。そんな悠里の横で、どうやらそれは知らなかったらしい椋が血の掟キタコレとかわけのわからない呪文を唱えながら鼻息を荒くし出したので、とりあえず柊はそれを思いっきり殴っておいた。




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