ごみぶくろ | ナノ

04/16(Mon):<押し入れ・つづき>


俺の友人に、すごく変わってるやつがいる。

趣味、かくれんぼ。ちなみに、高校生、男子。身長は俺と同じくらい。手足はちょっと俺より長い。むかつく。黙ってればふつうに今風のイケメンなのに自己紹介のときに「趣味はかくれんぼです」なんていいだすから周りの女子が絶句してた。きっとツイッターとか見たら、ぜったいに「クラスのイケメンが趣味かくれんぼって紹介してた」とかいうのが回っているにちがいないと思う。

ちなみに俺は、その自己紹介を三度聞いた。つまりそれだけ、こいつと、そしてこいつの趣味との付き合いも長いということである。

「…おーい、そろそろ出て来い、さもなくばお前のPSPの命はないぞ」

現在位置、あいつんち。
さっきまで肩を並べてゲームしてたんだけど、またいつもどおりいきなりヤツの悪癖が発動した。コントローラを放り投げて立ち上がり、「お前鬼な!百数えるまで顔上げるなよ!」と言いながら俺の頭を座布団にぐいと押しつけて、どこかに消えてしまったわけである。

あいつもプロなので、…いや、かくれんぼにプロとアマチュアの区分があるのかはわからんけど、足音でどちらの方角に隠れたのかなんてことを知らせるような初歩的な真似はしない。ていうか俺に人んちを探しまわれっていうのか。とかいう文句は、すでに言い飽きている。まったくもって唐突なたぶん第三十五次かくれんぼとかになってるだろうこの終わりのない戦いは、決まってあいつの勝ちで幕を閉じる。俺は負けるしかない。ほんとうになくなってしまったんじゃないかってくらい華麗に、あいつは俺の前から消えてしまう。

わざわざ大きく声を上げて百までを数え終え、俺は変な体勢をしていたせいで痛む腰を擦りながら立ちあがった。ゆっくりと部屋を見回す。ここに繋がっている部屋は三つある。どこにいる確率が一番高いかといえばもちろんこいつの部屋だろう。あいつもいちおう俺が探すのに遠慮する部屋は避けているようだったから。

あいつの部屋はやけにものが多い。理由は隠れやすいから、で間違いないだろう。汚いわけじゃないんだけど、色んなものがあって、目移りしてしまう。いつ来ても微妙にインテリアの配置が違う。この部屋は、言わばあいつの庭だ。ため息をついて、俺は前髪をかき上げた。とりあえず間近にあった、わざとらしく薄く開いているクロゼットにとりかかる。

うっかりあいつの学生証を見てしまったのは、第何次かくれんぼのときだったか。ごそごそと物置らしき樹海を探っていた俺の手に触れたそれを、何ともなしに開いたときに、息が止まった。いつだったかあいつがいきなり後ろからしがみついてきて、カメラで写真を取ったときの。めったにデジカメで自分の写真なんて撮らないから、たぶん唯一だろう、俺とあいつがふたりでうつった写真。それが、そこに挟まっていたもんだから。

あいつもしかして、俺のこと好きなんじゃねえの。

そう思ったとき、心当たりが多々あった時、俺は、すこしもいやじゃなかった。それどころか心臓が煩く鳴り出して、胸のあたりを押さえて立ちつくしてしまったりなんかして。結局お前ちゃんと探せよ!とあいつにぶん殴られたのは、まあ、なんていうか。

…面と向かってそれをあいつに聞いたことは、もちろんない。否定するんだろうか。それともそっぽをむくだろうか。それとも、隠れてしまうのだろうか。俺が、決して見つけられないところに。

だから、決めていた。
探そう、と、思った。あいつを見つけられたら、この終わりのない戦争に俺が勝ったなら、逃げられないようにして、聞いてやる。暴いてやる、と決めていた。

俺のこと好きなのか、と、それはもちろん問いじゃなくて確認なんだけど。そのときあいつがどう言おうと、俺の返事は決まっている。皮肉なことに、時が経てば経つほど、俺のなかであいつの存在は大きくなっていっていた。見つけてやれないのに、一度だってその尻尾すら掴んでないってのに。

今日も俺はまた鬼で、まだ鬼だ。でもいつか、かならず見つけ出す。
そのときまで、せいぜい息を潜めていればいい。



prev|TOP|next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -