ごみぶくろ | ナノ

04/16(Mon):<ソロモンの予言・つづき>


「スタンダール!てめえ、ぶっ殺す!」

ボロボロになって崩れたがれきをかき分けるために手にしていた鉄パイプに、ありったけの魔力を注ぐ。瞬く間に業火を纏ったそれを、近頃は慣れた手捌きで思いきり振りかぶって一閃させた。ここら辺の魔物なら一発でお陀仏だって威力だったのに、うふふ、と気味わるいことこの上ない笑い声を立てながら、あの優男は俺のそばにふわふわと浮かぶ水で出来た睡蓮を出現させて足場にして逃げ回っている。ほんとうなら俺も追いかけてこの古めかしいホールの天井すれすれまで歩を進めているあいつを、羽虫を叩き落とすみたいにぶん殴ってやりたいのに出来ないのは、俺にはあいつほどの魔力が無いからだ。…流石はソロモンの子、というやつだろうか。腹が立つ。

俺がスタンダールの『鞘』になって数カ月が経った。魔法学園の卒業と共に魔物の巣があるという僻地に派遣されたこいつに、無論『鞘』である俺も連れ回されているというわけだ。…あいつの言葉通り、父上の冤罪は簡単に晴れた。政敵を追いおとし再び町長に返り咲いた父上や、再び家族がそろって暮らせるようになった俺の家を鑑みるのなら、上々だ。あとはこいつの頭を一発ぶん殴って、さっさと逃げればいい。俺は、そう思ってたんだがな。

「何をそんなに怒ることがあるっていうんだい。怒った顔も好きだけどね」

ソロモンの子は一度定めた『鞘』以外に、収まることはない。それを聞いたときの俺の絶望感は、凄まじいものだった。鞘が壊れた剣を再び安全に保存しておくことが難しいように、ソロモンの子も一度『鞘』を喪ってしまえばその魔力を暴走させるやっかいな存在になってしまうのだという。…無論それは、ソロモンの子に絶大な信頼を置き、それを養成する魔法学園の存在を保護しているお偉方には知らされるはずもないトップシークレットだ。一介の学生でしかなかった俺なんて、こいつの『鞘』にでもならなきゃきっと一生知らないままで済んだだろうに。

『鞘』である俺が逃げ出せば、スタンダールはその恵まれ過ぎた魔力を暴走させ、魔物などとは比べ物にならない被害を出すまえに国に処分される。つまり、俺が逃げれば、こいつは死ぬのだ。一石二鳥じゃねえかと未だに俺は思ってるんだが、…その、なんだ。こいつはいちおうは俺の家族の恩人に当たるわけで、それを間接的とはいえ殺したっていうんじゃ夢見が悪い。だから仕方なく一緒に旅をしてやってるってのに、こいつと来たら。

事あるごとに気色悪いスキンシップをしてきやがるので、まじでムカつく。今もいきなり俺の頬をその腹がたつくらい優雅な手つきで撫でてきやがったので、話は冒頭に返るというわけだ。

「大丈夫だよ、ユーゴ。時間はたっぷりあるんだからね。じっくり慣れていけばいいのさ」

…やっぱ逃げてえ。くそったれ。






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