ごみぶくろ | ナノ

01/12(Thu):<押し入れ・両片想い>

「みいつけた」

ほんとはずっと、あいつがそうやっていってくれるのを、まってる。

「おい、いい加減に出て来いって…」

呆れたようなあいつの声がうろうろと聞こえる。俺はといえば絶賛傷心中なので、息を潜めて自分の膝小僧に頬を擦り寄せていた。俺はかくれんぼがちょっとした特技で、だから従ってこうしてこんな押入れの奥の方に隠れて息を潜めているわけだが、小さい頃からこうやって嫌なことがあると暗い部屋の端っことかキャスターの後ろとか食卓テーブルの下とか、そういうところに入っては膝を抱えてこうやって自省モードに入るのが常だった。

困った風に俺の名を呼んで歩きまわっている友人はそのことを良く知っている。しっているから出て来いよ、なんて一見すると無人のこの部屋で言っているわけである。高校生にもなってかくれんぼが趣味・特技という俺に、(最初の自己紹介のときにはクラスにいやな沈黙が走った)最初こそあいつも呆れていたけれど、大学生になってルームシェアをするような仲になるといい加減に慣れたらしい。ひとりかくれんぼとかいう怖い遊びを俺に勧めてくるくらいには、俺のこのかくれんぼ癖というかそういった性質にも馴染んでいる。

で、なんで今俺がその悪癖を発動してるかっていうと、俺を探している友人、兼ルームメイトの気を引きたいがためっていう、そりゃあ乙女チックな理由からなわけだった。俺はあいつが好きで、ちなみにラブのほうなんだが、だけど向こうはもちろん男の俺なんて好き嫌い以前に眼中になく、かといって自分からその乙女チックな恋心を暴露して同居生活をものすごく気まずいものにするわけにもいけないので、俺はこうして時々たとえばあいつが好きでたまらなくなったときとかに、こうしてひとりでかくれんぼをする。鬼は強制的にあいつだ。

俺はあいつのことが好きで。あいつは俺の事を友達だと思っている。俺はこの関係を、苦しいけれどここちよい関係を覆す気は、ちっともない。だからこうしてちょっと黴臭い押入れの端っこで、膝を抱えて俯いている。―――あいつには、決して見つからない。いままで一度だって、あいつが俺を探しだしたことはない。

「…降参なら、速やかに部屋を出て三分待つように」

ちかちかと眩しい携帯の液晶画面を開いていつも通りのメールを送り、俺はひとつ嘆息をする。俺は見つかっちゃいけない。これは俺の、単なる遊びでなければいけない。あいつを思って小さくなって泣いてるなんて、叶うことのない恋に胸を焦がして酸欠で喘いでいるなんて、決してバレてはいけないから。

「今日こそ見つける。」

あまり待たずしてメールが届いた。サイレントモードの俺に死角はない。でも文面がいつもと違っていたから、俺は布団にうずもれて硬直した。淡い期待に胸が高鳴るくらいには、俺はあいつのことが好きだからさ。でも空気読めないところはほんと直してほしい。いいから出てけ、そろそろ俺だってここから出たい。

あいつの手が三度めにこの押入れの襖を開く。がさごそと俺が埋もれている布団を探る。俺はその向こうで、息を潜めて俯いている。まだ焦るときじゃない、いつだってこうしていれば、決して見つかりはしないのだ。決して見つかることはない。俺の胸の奥の、こんなに邪魔な恋心とおんなじように。

「…くそ」

俺が潜んでいる上段から目線を下の段に移したらしいあいつが、中をごそごそと探っている気配。焦れたように呟いたあいつの声が、俺の胸を静かに焦がす。

「…言わなきゃいけないこと、あるってのに」

ぴしゃりと音をたてて襖がしまった。再び俺を、沈黙と暗闇が覆い隠す。せっかくケーキ買ってきてやったのに、食べちまうぞ!なんて声を上げて、あいつが違う部屋を探しにいく気配。俺はちいさく笑いながら、膝に額を押しつけた。

みつけたっていってあいつが俺を探しだしてくれたらその時は、俺は潔くこの恋を擲つことに決めていた。俺はもう分不相応な恋心を抱くのをやめるって、友達のままで満足するってそう決めていた。けどきっとあいつは探せない、この恋は終わらないし始まらない。見つけてほしいのに楽にしてほしいのに、けれど俺は決して見つからないようにこんな場所で息を潜めている。諦めたいのに諦めたくなくて苦しんでいる。押入れの奥の奥で、俺はまたほんのすこし泣いた。




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