ごみぶくろ | ナノ

01/07(Sat):<砂糖菓子の王冠・高校時代>


近所にあるショッピングモールの初売りに、行こうぜって言いだしたのは龍太郎だった。多分正月あんまり家から出ようとしない俺を見かねたんだろうと思う。このままじゃ丸くなるぞ、お前。俺の口に剥いたみかんを放り投げながら、年始の特番に見入っていた俺にそんなことを言っていたのは、たしかきのうのうちだったと思う。なんて返事したかイマイチ覚えてないけど、こうして今行列に混ざってるってことは頷いたんだろうなあ、きのうの俺。三日ぶりぐらいで外に出た。去年は初詣にいったけど、今年は行かなかったなあ。こたつの魔力って、ほんとにすごい。

「…うわ、開いた」

あけましておめでとうございまあす、の輪唱といっしょに、行列が動き出した。周りほとんど女の子ばっかりで肩身が狭かった。ちなみに龍太郎はさっきから周りの女の子にきゃあきゃあされていて、俺はさらに肩身が狭いです、はい。龍太郎スルーしてたけどな。モテなれてるやつは違う。なんて思ってる間に、ショッピングモール独特のだだっ広いホールまで辿りついていた。皆それぞれの目的の場所に雪崩をうって流れていく。ていうか俺たち何しに来たんだろう。なんて思ってたら、人波に呑み込まれそうになった。容赦なく俺を押しのける女の子の手がこわい。どどどどって地響きと一緒に洋服売り場に向かっていくひとたちだ。

「忍」

そんな俺の腕を掴んで引っ張ってくれたのは龍太郎だった。はぐれないようにその腕に掴まって、俺はどこ行くんだよって聞いてみる。…とりあえず上いってみる?なんて具体性に欠ける返事が返ってきた。やっぱり決めてなかったな、こいつ。

「なあなあみかん買って帰ろう」
「…お前、あれ食いつくしたのか」
「早く食べないとかびちゃうじゃん」
「一キロ段ボールだったよなあれ…」

口を開いて待ってればひな鳥に給餌するみたいにして龍太郎がみかんを放りこんでくれるので、俺はついついみかんを食べすぎてしまう。龍太郎の母さんが毎年年末に俺と龍太郎にみかんをひと箱ずつ買ってきてくれるんだけど、そういえば朝食べたみかんでそれが最後だったのを思い出していた。福袋の争奪戦が熾烈に繰り広げられている二階の婦人服売り場を中心として、彼氏や夫らしい荷物持ちの諸君の姿が見える。それでもまだ酔ってしまいそうなくらいの人ごみを、龍太郎は俺を腕にくっ付けたまますいすいと進んだ。

「これだけ人がいっぱいいたらさ、迷子になったらもうだめだな」

周りはほんと、人人人って感じ。新年早々お疲れ様です。暇を持て余して目的もなしにこんな激戦地にやってくる無謀な人間は、みたところほかには見受けられなかった。龍太郎に迷子放送掛けられるのはごめんだったので俺はしっかりとその腕に掴まっておく。あおいコートに毛糸の帽子をかぶった大野忍くんじゅうろくさい、お連れ様がお待ちです。迷子カウンターまでお越しください。…もうすげえ鮮やかに想像できるね。でも龍太郎は、人を掻き分けながら俺を首だけで振り返って笑った。

「はぐれても、ちゃんと見つけてやるって」

ちょっと面喰った俺に構わず、龍太郎はずんずんと進んでいく。ほんとに?と聞いてみたかったけど、きっと龍太郎ならやってのけるんだろうなってちょっと思った。だって周りを見回したら、こんな人ごみのなかですら龍太郎はほかのひとたちとは全然違う。見慣れて見飽きた顔だけすっと、ごく自然に俺の視界に入ってくる。こんなふうに龍太郎も俺のこと見ててくれんのかなって思ったらうれしくて、俺は人ごみを良いことに、龍太郎のてのひらをぎゅっと握ってやった。




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